今回は、四半期に一度発行しております『物流マクロ市況』の10月版をお届けします。「物流」について、関係する各種指標やデータを用い、業界全体の動向を解説しております。お時間がありましたらぜひお読みください。
図1の概略図のように、経済動向や需給(需要と供給)は生産動向に関わり貨物の動きや量に大きく影響します。そして、国内外の規制や政策、国際貿易情勢、天候、インフラ、労働力などは物流事業環境に直接影響を与えます。米国の関税政策のように先が読めないものもあります。
ここでご紹介するものがすべてではありませんが、こうした観点から関連する個々の指標をお届けします。
[図1]物流に影響を与える要素
最初に日本経済の状況です。
内閣府が10月に発表した「月例経済報告(令和7年10月)」によりますと、景気の現状は、米国の通商政策による影響が自動車産業を中心にみられるものの、緩やかに回復しているとのことです。
2025年を通してみると、各項目で大きな変化は見られませんが、倒産件数については、横ばいで推移していたものが今年上半期(4-9月)で増加が見られるようになっています。中小企業で人手不足や物価高騰などの影響を受けているとのことです。
景気の先行きでは、米国の通商政策の影響(図2ご参照)や物価上昇の継続等が景気を下押しするリスクになっていると伝えています。
[図2]米国の関税政策による直接的・間接的波及経路
出所:内閣府「令和7年度年次経済財政報告(2025年7月29日)」(https://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html)
<企業部門>
財務省が10月に発表した「四半期別 法人企業統計調査」によりますと、2025年4-6月期の金融業、保険業を除く全業種は、売上高、営業利益、経常利益、設備投資で前年同期比プラスとなりました。経常利益は35兆8,338億円で過去最高の金額を更新しました。
経常利益について、長期的な企業行動の変化を概観した内閣府の「令和7年度 年次経済財政報告」の「第2節 我が国の企業行動における長期的な変化と課題」では、1985年からの過去30年において企業の収益力は大きく向上していると解説しています。世界金融危機やコロナ禍などで低下する局面もありましたが、長期的なトレンドとして経常利益は上昇基調で推移しているとしています。一方で企業の設備投資への抑制や増益分の多くを社内留保に充てているといった傾向も解説しています。次の図3は経常利益と設備投資の長期的な動向を示したグラフです。ご参考に掲載します。
なお、短期的には企業の投資意欲は高く、特に、デジタル化などソフトウエアへの投資は堅調とのことです。
[図3]経常利益と設備投資の動向
「2010年代以降、経常利益の増加に比して、設備投資は抑制傾向」
出所:内閣府「令和7年度年次経済財政報告(2025年7月29日)」(https://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html)
<家計部門>
総務省の消費者物価指数*を見ますと、2025年9月の「生鮮食品を除く消費者物価指数」は、前年同月比で2.9%上昇となりました(図4の中心のグラフご参照)。昨年に比べ電気・ガスの補助金の規模が減少したことなどにより、上昇率が前の月のものより0.2ポイント拡大しました。上昇率が拡大するのは4カ月ぶりとなります。
*消費者物価指数とは:小売り段階の財およびサービスの物価の動き。経済を見るきわめて重要な指標となる。CPI(Consumer Price Index)とも呼ばれる。
[図4]消費者物価指数
出所:総務省 消費者物価指数 全国統計データ(https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html)より当社作成
次に、物流に関する次の8項目の市況をご紹介します。
減少・横這い傾向ですがコロナ禍前の水準より高い状態が続いています。
・道路貨物輸送、宅配便、海上貨物輸送、航空貨物輸送価格指数
・原油価格(輸入)
・小売軽油価格
・倉庫価格指数
・事業用電力、都市ガス、上水道価格指数
・全国最低賃金
・段ボール箱、梱包用木材価格指数
・ナフサ価格(輸入)
こちらの図5は、企業間で取引されるサービス価格の変動を日本銀行が測定した「企業向けサービス価格指数[2020年基準]」のデータから作成したグラフです。
航空貨物輸送運賃は下降基調で、9月は前年同月比で3.7ポイント減少しています。前月比では5.5ポイント増加しています。
道路貨物輸送は前年同月比で2.8ポイント、海上貨物輸送は4.1ポイント上昇しています。
[図5]道路貨物輸送・宅配便・海上貨物輸送・航空貨物輸送価格指数
出所:日本銀行 企業向けサービス価格指数データ
(https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$nme_a000&lstSelection=PR02)より当社作成(指数は最高値を使用)
※「企業向けサービス価格指数」とは、企業間で取引されるサービスに関する価格の変動を日銀が測定したもの。企業間での個々の商取引における値決めの参考指標としても利用されている。
こちらの図6は、財務省の貿易統計から作成した輸入の原油価格の推移です。
2024年7月から下降傾向にありましたが、2025年6月から若干上昇に転じています。上げ幅は小さい状態です。9月は67,797円/キロリットルで、前月比で1.1%増となりました。前年同月比で見ると、▲9.8%と大きく水準が低下しています。
[図6]原油価格(輸入)
出所:財務省 貿易統計 概況品別統計品目表(輸入) (https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm)より当社作成
※原油(HSコード270900900) ※確報値
こちらの図7は、資源エネルギー庁の石油製品調査の週次データから作成した小売軽油価格の推移です。
2025年10月27日は153.7円/リットルで、前年、前々年の同時期とほぼ同じ水準となっています。
今後、政府はガソリンと軽油の税に上乗せされている旧暫定税率を廃止するとしています。ガソリンは12月31日に、軽油は来年4月1日に廃止される方向です。そのつなぎとしてこれまで段階的にガソリン価格を引き下げてきた補助金を拡大する措置を講じるとのことです。ガソリンと軽油は1リットルあたり10円を段階的に引き下げるとしていましたが、その補助金額を段階的に拡大していくとのことです。
[図7]小売軽油価格
出所:経済産業省 資源エネルギー庁「石油製品価格調査」
(https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/)給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)の週次ファイルより当社作成。
※九州局の価格が高い理由:離島の多い長崎県および鹿児島県が引き上げている。製油所からの輸送コストがかかっていることが主要因。(日本の製油所は関東・関西に集中)
こちらの図8は、国土交通省の不動産価格指数から作成した倉庫と工場の価格指数のグラフです。
2025年第2四半期の倉庫・工場の価格指数は、全国、三大都市圏ともに第1四半期に続いて下落しました。工場は前年同期と同水準ですが、倉庫は前年同期比で約10ポイント前後の下落となりました。
[図8]倉庫価格指数
出所:国土交通省 不動産価格指数(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html)
より当社作成(季節調整値を使用)。
※三大都市圏:南関東圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)、名古屋圏(岐阜・愛知・三重)および京阪神圏(京都・大阪・兵庫)の統合。
こちらの図9は、生産者段階における出荷時点の生産者価格を日本銀行が調査した「国内企業物価指数[2020年基準]」のデータから作成したグラフです。
事業用電力・都市ガスは、9月は各項目で前月より減少しました。ロシアのウクライナ侵攻後の価格上昇は、政府の補助により抑制されてきましたが、侵攻前と比較すると高水準が継続しています。
[図9]事業用電力・都市ガス・上水道価格指数
出所:日本銀行 国内企業物価指数データ
(https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$nme_a000&lstSelection=PR01)より当社作成(指数は最高値を使用)
※「国内企業物価指数」とは、国内で生産した国内需要家向けの商品(財)が対象。生産者段階における出荷時点の生産者価格を日銀が調査したもの。
こちらの図10は、厚生労働省の全国最低賃金の推移です。最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定めたもので、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとされています。
2025年は1,121円に増加しました。政策により最低賃金は上昇中です。政府は2020年代に1500円にする目標を掲げています。
[図10]全国最低賃金
出所:厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/)より当社作成 ※全国最低賃金は加重平均による算出。
こちらの図11は、段ボール箱や梱包用木材といった物流で使用する資材の価格指数の推移です。先述の事業用電力などと同様の日本銀行による「国内企業物価指数[2020年基準]」を使用して作成しています。
2021年のウッドショック*から急上昇し、そのまま高水準で推移を続けています。梱包用木材は6、7月に150.2、紙段ボール箱は8月に122.9と最高値を更新しました。
*ウッドショックとは:2021年、コロナ禍による需給バランス崩壊やコンテナ不足、米国の住宅需要急増等の要因で木材が高騰。輸入材の代替えとなる国産材も需要が高まり価格が上昇。現在も輸入材の価格上昇、供給量が不安定なことにより、ウッドショック前の水準に戻らず。
[図11]段ボール箱・梱包用木材価格指数
出所:日本銀行 国内企業物価指数データ
(https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$nme_a000&lstSelection=PR01)より当社作成(指数は最高値を使用)
※「国内企業物価指数」とは、国内で生産した国内需要家向けの商品(財)が対象。生産者段階における出荷時点の生産者価格を日銀が調査したもの。
こちらの図11は、財務省の貿易統計から作成した輸入のナフサ価格の推移です。ナフサはポリエチレンやポリプロピレンといったプラスチック等の原料で原油から精製されます。物流でよく使用する資材類の原料となります。
2025年4月は68,215円/キロリットルで、前年同月比で▲9.7ポイントと大幅に下降しました。
[図12]ナフサ価格(輸入)
出所:財務省 貿易統計 概況品別統計品目表(輸入)
(https://www.customs.go.jp/toukei/info/tsdl.htm)より当社作成(確報値を使用) ※ナフサ(HSコード271012181)
以上、ここまで『物流マクロ市況』をお届けしました。お読みいただきありがとうございました。
各データの公表時期が分かれるためデータの時期にばらつきはありますが、現在の状況把握のお役に立てればと思います。今後もさまざまな視点から物流マクロ市況をレポートしていきたいと思いますので、次回もお読みいただければ嬉しく思います。
※なお、当記事でご紹介するデータは記事作成時点(2025年10月29日)で公表されているものです。公表後に修正される可能性がございますので、ご利用の際は情報元にアクセスいただきご確認頂くことをおすすめいたします。
このほか、様々なソリューション・事例がございますので、ご興味がありましたらお気軽に当社営業、または当WEBサイトの「お問合せ」よりご連絡いただけましたら幸いです。