デジタル社会を支える「半導体」は、日本でも多くのニュースやメディア特集が組まれ、みなさまも目にする機会がこれまで以上に増えていると思います。
日本は、「経済安全保障推進法」の中の「供給網の強化」で、安定供給を図る必要のある特定重要物資の1つとして「半導体」を指定しています。世界を見ますと、米国は関係各国との連携協議を推し進め、中国も自国の半導体自給率を上げようと積極投資を行なっています。
今回は、主要国・地域の半導体政策に焦点をあて、半導体産業の昨今の動向をお伝えしていきます。どうぞ最後までお付き合い頂けますようお願いいたします。
サプライチェーンの強化や次世代半導体開発に関し、米国主導で関係各国との連携協議が進められています。具体的な動きとしては以下があります。
米国は、2022年5月にIPEF(アイペフ)「インド太平洋経済枠組み」を関係各国へ提案しました。IPEFは、米国主導の下、参加国と経済分野での関係を深める新しい経済圏構想です。RCEP(アールセップ)協定「地域的な包括的経済連携」加盟ならびにTPP「環太平洋経済連携協定」加入申請をしている中国に対し、米国がインド太平洋地域での存在感を強めようとすることが狙いと言われています。
IPEFは、以下の4つが柱となっています。
・公平で強靭性のある貿易
・サプライチェーン強化
・クリーンエネルギー移行などのクリーン経済
・効率的な税制、反腐敗(汚職)対策の公正な経済
発足段階での参加国は、米国、日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの13カ国です。インドは、のちに「貿易」項目不参加を表明しています。
半導体に関する事項としては、「サプライチェーン」では明文化はされていませんが、半導体生産品の安定供給を主眼に議論が進められており、2023年2月には、インド・ニューデリーで行われた主席交渉官会合で「サプライチェーン」、「クリーン経済」、「公正な経済」の3分野について協議が実施されました。
IPEFは貿易協定などと異なり、関税の撤廃・引き下げ等の経済効果を伴わないため参加国の利益が見えにくいといった指摘があり、今後どのような仕組みとなっていくかが注目されます。
米国は2022年3月、半導体業界のサプライチェーンを強化するための方法について議論する為、韓国・日本・台湾に対し、個別に「CHIP(チップ)4同盟」結成を提案しました。
米国は半導体設計と電子ソフトウェアツールで依然として圧倒的な地位にありますが、台湾・韓国は最先端半導体生産のほぼ9割を占め、また日本は半導体材料や製造装置に強みを持っています。この4カ国で「次世代半導体の安定供給」の議論を行っていくのがCHIP4です。
ちなみに、TSMC熊本工場設立やラピダス設立(IBMからの2nm製造技術提供)が成果の1つと言われています。
2022年8月には、米国国内での半導体製造を促進するための法律「CHIPS(チップス)プラス法」が成立しました。
2021年1月に成立していたCHIPS法(CHIPS for America)の補助金の枠組みに、予算の割り当てを定めた法律です。国内の半導体製造施設に補助金を出すプログラムと、半導体製造装置の購入やその他の設備投資に対する税額控除等が規定されています。基金による支援は5年間で計527億ドル(約7兆円)、関連投資には25%の税額控除を行うとしています。なお、補助金を受けた企業は向こう10年間、中国やロシア等懸念を有する特定国での先端半導体(28nm 未満の世代)の製造能力を拡大することが禁じられています。
*CHIPS:Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductorsの略
欧州は、2030年に向けたデジタル政策の目標「デジタル・コンパス2030」を2021年3月に発表しました。この中で、次世代半導体の欧州域内生産について世界シェアを20%以上にすることを目指すとしています。現在、10%程度と言われていますので2倍以上を目指していくことになります。
2023年4月18日、欧州版CHIPS法と言われる「欧州半導体法」が、欧州理事会、欧州議会で合意に達したと発表されました。今後最終的な決定を経て施行される予定です。
「欧州半導体法」は、欧州域内での最先端半導体の研究開発や、設計から生産までのエコシステム確立を目指すものです。域内での半導体産業の強化、他国からの半導体の供給依存を減らし安定的供給を確保することが狙いです。
2030年までに累計430億ユーロ(約6兆円)規模の官民投資が計画されています。また、これまで、原則、特定の企業や製品への補助金を禁止していましたが、加盟国が特定の企業等に補助金を出すことを特例として認めています。
通称「台湾版CHIPS法」とも呼ばれる「産業創新条例(第10条の2および第72条)」の改正案が2023年1月7日、台湾立法院を通過しました。適用期限のある条例で、適用期間は2023年1月1日から2029年12月31日までとなります。
この条例は、先端技術の研究開発を支援するものになります。先端技術研究費支出の25%、先端プロセスに用いる先進設備費支出の5%について、当該年度の法人税から控除されることが定められています。対象は、研究開発規模や対売上高比率などが一定規模・割合を満たすことが要件となっています。控除総額は法人税額の50%を超えないことが定められています。
韓国が2022年7月に発表した「半導体超強大国達成戦略」では、
・半導体産業団地の拡大に向けた投資(2026年までの5年間で340兆ウォン)
・労働・安全面の規制緩和(労働者の法定労働時間の例外設置)
・半導体産業に関する規制緩和(有害化学物質管理の設置・管理基準緩和)
などを実施する方針としています。
また、人材に関しても、半導体協会、企業、政府が共同で「半導体アカデミー」を設立し人材流出の課題に対応していくとしています。開発分野にも支援を行い、現在3%のシステム半導体市場シェアを、2030年には10%に引き上げるとしています。
2015年に発表したハイテク産業育成戦略「中国製造2025」で特定した重点10分野の中に半導体も含まれており、2025年までに半導体自給率を70%にまで高める目標を設定しています。また、第14次5カ年計画(2021~2025年)では半導体産業の積極投資を行う計画としています。
国内半導体産業支援のため、1兆元を超える規模の対策が計画されていると言われています。
国としての半導体・デジタル産業の競争力強化、強靱化に向け、経済産業省は、2021年6月に「半導体・デジタル産業戦略」を策定しました。
以下の3つの目標が設定されています。
・国家事業としての産業基盤の確保
・日本に根差す事業者の確立と世界的相互依存関係での地位確立
・デジタル化とグリーン化の同時達成、早期実用化
2023年4月3日には改訂案を示し、国内で半導体を生産する企業の2030年の合計売上高を、2021年時点の目標13兆円から15兆円へ引き上げました。
出所:「半導体・デジタル産業戦略(改訂案(抜粋・概要版))」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0008/0007.html)
2022年3月、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」(5G促進法)および「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法」(NEDO法)の改正法が施行されました。
NEDO法では、事業者の半導体投資判断を後押しするため、
・高性能な半導体生産施設整備などに係る計画認定制度の創設
・認定された計画の実施に必要な資金に充てるための助成金交付
・助成金交付のための特定半導体基金の設置
等が定められました。
2022年5月11日、国民生活や経済活動を止めることなく運営することを目的に「経済安全保障推進法」が成立しました。本法は、「供給網の強化」、「インフラの安全確保」、「先端技術の研究開発」、「特許の非公開化」の4つが柱となっています。
「供給網の強化」では、国民の生存や、国民生活・経済活動に甚大な影響のある物資の安定供給を図る措置がうたわれており、「半導体」も「特定重要物資」に指定されています。物資ごとに、サプライチェーン上の課題や動向などを踏まえ、効果的な取り組みの方向性を整理した「安定供給確保取組方針」が策定され、物資やその製造装置の製造設備支援や、製造設備への金融支援なども規定されています。半導体については、2023年1月19日に取組方針が策定されました。
2022年度第2次補正予算では、先端半導体の国内生産基盤整備や、次世代半導体の製造技術等の研究開発・実証等で、1.3兆円が計上されています。
半導体のサプライチェーン強靭化や先端・次世代半導体の研究開発においては、諸外国との連携が不可欠になっています。日米関係では、次のような動きがあります。
・2022年5月 4日 萩生田前経産大臣とレモンド米商務長官の間で「半導体協力基本原則」に合意
・2022年5月23日 日米首脳会談で、「半導体協力基本原則」に基づく次世代半導体開発の共同タスクフォースの設置を発表
・2022年7月29日 日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)で、重要・新興技術の育成・保護に向けて日米共同研究開発の推進に合意
トピックス記事の出典:
「半導体に係る安定供給確保を図るための取り組み方針」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/semicon/torikumihousin_semicon.pdf)、
「半導体・デジタル産業戦略」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital.html)、「産業構造審議会」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/index.html)、各国政府発表資料を基に作成
※各国・地域の半導体助成金等の支援規模は、国・地域によって構成が異なりますのでご注意ください。
ここまでご紹介してきましたように、各国の思惑で半導体産業の囲い込み・積極投資を行っていますが、この先の半導体産業がどのようになるかを想像してみます。
過去を振り返りますと、DRAM全盛期時代(1990年代)、日本の各メーカーは生産投資を競い合っていました。その後、韓国メーカーもその投資合戦に参戦し、結果、製品余剰から価格の大暴落→DRAM事業の合弁・集約→最終的にはワールドワイドで3社寡占状態となりました。歴史は繰り返されると言いますが、③のシナリオにはならないでほしいと願います。
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