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国際物流のセキュリティ確保と円滑化!|AEO制度と取り巻く状況

作成者: NECL|2023.09.26

国際物流のセキュリティ確保と円滑化!-AEO制度を解説-


 2001年の米国9.11同時多発テロを契機に設立されたAEO(Authorized Economic Operator)制度。AEO制度は国際的な貿易に関する制度で、現在、世界90以上の国・地域において導入されています。
 当社のグループ会社 Nippon Express NEC Logistics (Shanghai) Ltd.(以下、上海社)は、先般、中国上海外高橋税関からAEO高級認証企業の認定を取得しました。これにより、低い検査率・通関手続きの優先処理・通関リードタイムの短縮といったベネフィットを受けることが出来るようになり、お客様に、より高信頼・高品質なロジスティクスサービスを提供することが可能となりました。

 今回は、AEO制度について取り上げ、メリット・デメリットを含めた基本解説と制度を取り巻く状況をお届けします。
 この情報が少しでも皆様のビジネスのお役に立てれば幸いです。

 

AEO制度の創設の背景

 


 AEO制度は、貨物*のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された事業者が、税関手続きの緩和・簡素化といったベネフィットを受けられる制度です。
*貨物:輸送機関によって運ばれる物品

 AEO制度は、2001年の米国9.11同時多発テロを契機に、国際物流におけるセキュリティ管理と円滑な国際貿易を両立することを目的に創設されました。
 最初は2005年、WCO(世界税関機構)がAEO制度の概念を含む国際的な枠組み(「SAFE基準の枠組み」)を採択しました。続いて2006年、同じくWCOがAEO要件やベネフィット等を記述した「AEOガイドライン」を採択しました。さらに、2007年には「SAFE基準の枠組み」に「AEOガイドライン」の内容を包含する改正が行われ、現在、この「SAFE基準の枠組み」に従い、日本を含む世界の多くの国・地域でAEO制度が導入されています。
 



日本版AEO制度

 つづいて日本におけるAEO制度を解説します。

(1)概況
(2)取得の流れと取得後の対応
(3)AEO事業者が受けられるメリット
(4)海外との連携“相互承認”
(5)AEO制度におけるデメリット

     
(1)概況

 日本では、2006年3月に輸出者を対象として導入、その後、輸入者、倉庫業者、通関業者、運送者、製造者の順で対象が拡大されていきました。現在、740の事業者がAEO事業者として認められています(2023年4月1日時点) 。

 

AEO事業者数の推移

 次のグラフは2006年導入以降の日本AEO事業者数の推移です。輸出者・輸入者・倉庫業者などの数はここ数年横ばいですが、通関業者は継続して増加しています。

出所)税関「AEO制度 AEO制度認定事業者」(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kaizen.htm)を基に作成

 

企業はどんな理由でAEOを取得しているの?

 公益財団法人日本関税協会は、同協会が主催しているAEO事業者連絡協議会(約9割の日本AEO事業者が参加)のメンバーに対して、AEO制度の活用と効果に関する調査を行っています。その調査結果によると、AEO輸入者及びAEO輸出者の取得理由では「リードタイム短縮」、「AEOベネフィットの活用」、「社会的信用の向上」、「社内コンプライアンス体制の強化」という回答が多く、特にAEO輸出者は「リードタイム短縮」への期待が大きい結果となっています。AEO物流関係事業者(AEO通関業者/倉庫業者/運送者)を見ると9割を超える事業者が「社会的信用の向上」を取得理由として回答しています。

  • 調査期間:2022年11月1日~11月30日
  • 回答者数:AEO事業者連絡協議会加盟者の52.8%の348事業者。同協議会加盟者以外を含むAEO全事業者に対する割合では47.2%。

グラフ出所)公益財団法人日本関税協会「第3回AEO制度の活用と効果に関する調査結果
(2:AEO事業形態別取得理由別の回答割合)」(https://www.kanzei.or.jp/bukai/aeo1.htm


顧客又は取引相手から取引条件として求められるの?

 同じ調査で、顧客又は取引相手から「AEOか否かの問合せあり」と回答したAEO事業者の割合は、輸入者36.1%、輸出者73.2%、通関業者74.5%、倉庫業者71.8%、運送者50%と全体的に高い結果となりました。また、顧客又は取引相手から「AEOが取引条件として設定あり」と回答したAEO事業者の割合は、輸入者8.3%、輸出者17.1%、通関業者44.0%、倉庫業者36.5%、運送者25%となり、物流関係事業者で高い割合となりました。物流関係事業者にとって、AEO認定かどうかを求められる場面が多いことが想定されます。

     
(2)取得の流れと取得後の対応
  • 取得前:AEO制度への参加は義務ではなく、AEO制度の承認又は認定を希望する事業者が税関に申請して行うものです。法令遵守体制の整備及びその実効性、セキュリティ対策など必要な事項が整えば、事業規模に関わらず承認又は認定を受けることが出来ます。

  • 取得中:税関と面談(相談)をしてから体制整備、自己評価、実地調査等を経て関係書類を税関に提出・申請し承認又は認定を受けます。面談から承認又は認定までの所要期間は過去の実績からだいたい1年~2年と言われています。

  • 取得後:承認又は認定後に、監査が実施されます。監査は年に1回以上の事業者内部の管理組織による「内部監査」と、税関による「事後監査」があります。税関による監査は、承認又は認定から2年以内に実施される「初回監査」と直近の監査から5年以内に実施される「事後監査」があります。

  • 更新:AEO倉庫業者の特定保税承認は8年ごとに更新を受ける必要がありますが、それ以外の事業者では更新手続の必要はありません。

AEO承認又は認定の取消はあるの?

 関税法で定められた取消事由に該当した場合には取消の可能性があります。
「法人又は役員が関税法その他国税に関する法律の規定に違反して刑に処せられ又は通告処分を受けた場合」などが該当します。
 例えば、 役員が会社の業務とは無関係に起こした関税法違反(例:私的な海外旅行で帰国時輸入禁止品を持ち込もうとして摘発)は、個人の不祥事であっても会社の信用・信頼を失わせ、AEO認定を取り消されたり認定返上を余儀なくされるおそれがあります。

     
(3)AEO事業者が受けられるメリット

 次にAEO事業者ごとに受けられるメリットを紹介します。
 以下の表は、各制度のメリットを一覧にしたものです。

各制度のメリット一覧

 
方針 項目

AEO輸出者
(特定輸出者)

・特定輸出申告の利用(図1
・申告官署の自由化(図5
・輸出許可後の訂正に係る申請手続の簡素化
・通い容器に関する免税手続の簡素化
・加工又は修繕のため輸出入される貨物に係る輸出申告時の簡素な手続
・カルネ申告に係る申告官署の弾力化
・審査・検査の軽減
・相互承認
・国際海上輸出コンテナの総重量の確定方法に係る手続との連携[国土交通省]
・KS/RA*制度との連携[国土交通省]
・安全保障貿易管理との連携[経済産業省]

②AEO輸入者
(特例輸入者)

・特例申告の利用(図2
・申告官署の自由化(図5
・加工再輸入減税制度の減税手続の簡素化
・加工又は修繕のため輸出入される貨物に係る輸入申告時の簡素な手続
・通い容器に関する免税手続の簡素化
・ワシントン条約該当貨物の輸入に係る検査場の緩和
・カルネ申告に係る申告官署の弾力化
・審査・検査の軽減
・相互承認

AEO倉庫業者
(特定保税承認者)

・届出による保税蔵置場等の設置
・届出蔵置場等に係る帳簿の保存期間の短縮
・検査の軽減
・許可手数料の免除
・相互承認
・国際海上輸出コンテナの総重量の確定方法に係る手続との連携[国土交通省]

AEO通関業者
(認定通関業者)

・特定委託輸出申告の利用【輸出に係る緩和措置】(図3
・特例委託輸入申告の利用【輸入に係る緩和措置】(図4
・申告官署の自由化(図5
・加工再輸入減税制度の減税手続の簡素化
・加工又は修繕のため輸出入される貨物に係る輸出入申告時の簡素な手続
・ワシントン条約該当貨物の輸入に係る検査場の緩和
・カルネ申告に係る申告官署の弾力化
・相互承認
・国際海上輸出コンテナの総重量の確定方法に係る手続との連携[国土交通省]

AEO運送者
(特定保税運送者)

・保税運送ごとの承認手続が不要
・特定委託輸出申告に係る貨物の運送が可能
・相互承認
・国際海上輸出コンテナの総重量の確定方法に係る手続との連携[国土交通省]

AEO製造者
(認定製造者)

・特定製造貨物輸出申告の利用
・申告官署の自由化
・相互承認
・国際海上輸出コンテナの総重量の確定方法に係る手続との連携[国土交通省]

*KS/RA制度:Known Shipper/Regulated Agent制度。航空機に搭載する航空貨物について荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護するICAO国際標準等に基づく制度。

出所)税関AEO制度(各制度のメリット)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/aeo/aeo_merit.htm)を基に作成

 


 つづいて、AEO事業者ごとの主なメリットを図で説明します。

 

①AEO輸出者(特定輸出者)のメリット一例

 輸出貨物を保税地域に搬入することなく輸出申告を行い許可を受けることが可能となります。輸出貨物の迅速かつ円滑な船積み(積込)が可能となり、リードタイム及びコストの削減等が期待できます。

【図1:特定輸出申告の利用】

 

 

②AEO輸入者(特例輸入者)のメリット一例

 輸入貨物を保税地域に搬入することなく輸入申告を行い、国内到着前に許可を受けることが可能となります。また、関税等を後日一括して納付することが可能となります。輸入貨物の迅速かつ円滑な引き取りが可能となり、リードタイム及びコストの削減等が期待できます。

【図2:特例輸入申告の利用】

 

 

③AEO倉庫業者(特定保税承認者)のメリット一例

 保税蔵置場又は保税工場を設置しようとする場合、税関長の許可が必要ですが、AEO倉庫業者は税関長へ届け出ることにより設置が可能となります。また、一般の保税蔵置場等に比べ許可期間が6年→8年と長くなったり、届出に係る帳簿の保存期間が2年→1年に短縮されたりといったメリットがあります。

④-1.AEO通関業者(認定通関業者)の輸出に関するメリット一例

 輸出者の依頼により行う輸出貨物の通関手続きについて、AEO運送者(特定保税運送者)による運送等を前提に、保税地域以外の場所にある貨物の輸出申告を行い、許可を受けることが可能になります。輸出貨物の迅速かつ円滑な船積み(積込)が可能となり、リードタイム及びコストの削減等が期待できます。

【図3:特定委託輸出申告の利用】

 


 

④-2.AEO通関業者(認定通関業者)の輸入に関するメリット一例

 輸入者の依頼により行う輸入貨物の通関手続きについて、保税地域搬入前に輸入申告をすることが可能となります。また、貨物の引き取り後に納税申告を行うことが可能となります。輸入貨物の迅速かつ円滑な引き取りが可能となり、リードタイム及びコストの削減等が期待できます。

【図4:特例委託輸入申告の利用】

 

 

⑤AEO運送者(特定保税運送者)のメリット一例

 保税運送について個々の承認が不要となり事務負担が軽減されます。
 特定委託輸出申告に係る貨物の運送が可能となります(参照:図3)。

⑥AEO製造者(認定製造者)のメリット一例

 当該貨物を取得した輸出者(特定製造貨物輸出者)が行う輸出通関手続きにおいて、当該貨物を保税地域に搬入することなく輸出の許可を受けることが可能となります。

AEO輸出者、AEO輸入者、AEO製造者及びAEO通関業者共通のメリット一例

 AEO輸出者、AEO輸入者、AEO製造者及びAEO通関業者については、貨物の蔵置場所に関わらず、いずれの税関官署に対しても輸出入申告を行うことが可能となります。これにより、税関官署の選択肢が広がり輸出入に係る事務の効率化やコスト削減が期待できます。

【図5:申告官署の自由化】

 

15の出所)財務省・税関「AEO制度(各制度のメリット)」(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/aeo/aeo_merit.htm)を基に作成

 


 AEO制度活用によるメリットは多くありますが、実際にAEO取得でどのような便益(ベネフィット)をうけているのでしょうか。

 

AEO事業者が取得によって得た便益(ベネフィット)

 先出のAEO取得理由と同じ調査で、事業形態別のAEO取得によって得られた便益を見てみますと、 AEO輸入者及びAEO輸出者では「税関検査率の減少」、「リードタイム削減」が多く、AEO物流関係事業者(AEO通関業者/倉庫業者/運送者)は、「社会的信用の向上」、「社内のガバナンスの向上」が多くなっています。

  • 調査期間:2022年11月1日~11月30日
  • 回答者数:AEO事業者連絡協議会加盟者の52.8%の348事業者。同協議会加盟者以外を含むAEO全事業者に対する割合では47.2%。
  • 回答者はAEO取得による便益のある項目上位3つを回答。

グラフ出所)公益財団法人日本関税協会「第3回AEO制度の活用と効果に関する調査結果
(4:事業形態別の便益項目の回答割合)」(https://www.kanzei.or.jp/bukai/aeo1.htm


 次は海外との連携状況です。
 海外の
AEO制度導入国と日本は相互承認を行い連携を取っています。

     
(4)海外との連携 “相互承認”
相互承認とは?

 相互承認は、AEO制度を導入している2国間で、それぞれのAEO制度およびAEO事業者を相互に承認し、互いに税関手続上のベネフィットを与えることを認め合うものです。これにより、AEO事業者は互いに輸出入の審査にかかる時間が短くなり、貿易拡大が見込めます。また、AEOの承認を受けていない日本の輸出者・輸入者でも、取引相手が相互承認の国・地域のAEO輸出入者の場合には、相互承認のベネフィットを受けることが出来ます。

 現在、世界では100組を超えるAEO相互承認が成立しています。日本では13の国・地域と相互承認の署名をしています。

 相互承認の利用方法は相互承認相手国ごとに異なるため注意が必要です。米国、カナダ、ニュージーランド及びタイとの相互承認においては、それらの国々の AEO 制度の特徴などにより、相手国の AEO 輸出者の貨物のみを対象とし、それぞれ自国の輸入手続に限って相互承認のベネフィットを供与することとしています。
 取引相手が、相互承認相手国・地域においてAEO 輸出入者なのかを調べる方法は、① 取引相手に直接聞く、②取引相手国税関ウェブサイトを調べるの2通りの方法があります。税関ホームページに掲載されている「AEO相互承認活用マニュアル」には各国税関ホームページのリンク集がありますのでここから調べることも可能です。
 ご参考:税関「AEO相互承認 活用マニュアル」(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/aeo/aeo_manyuaru.pdf

出所)税関AEO制度 相互承認」(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kaizen.htm#aeo004

 ちなみに、AEO制度の呼び方は国によって異なります。
 日本と相互承認している13の国・地域を中心に紹介します。

 米国はC-TPAT制度、カナダはPIP制度、オーストラリアはATT制度、ニュージーランドはSES制度、シンガポールはSTP/STP-Plus制度などと呼んでいます。ちなみに、EUではAEO制度と呼び、加盟国で同一のAEO制度を導入しています。
<略>
 米国 C-TPAT:Customs-Trade Partnership Against Terrorism
 カナダ PIP:Partners in Protection
 オーストラリア ATT:Australian Trusted Trader
 ニュージーランド SES:Secure Exports Scheme
 シンガポール STP:Secure Trade Partnership

     
(5)AEO制度におけるデメリット

 AEO制度によるデメリットは無いのですが、AEO事業者は、PDCAサイクルによる継続的な見直し(改善)を行い、認定・承認時の水準を維持・向上することが求められる為、管理体制にかかる負荷は小さくありません。また、AEO事業者になれば、受けられるメリットは多数ありますが、取り消された場合の社会的信用失墜及び企業ブランドイメージの低下といったダメージは大きいと言えます。

 ここまでAEO制度を解説しました。

 (執筆は2023/9/26時点で、情報は変わる可能性があります)

 次は当社のAEO関連情報を紹介します。

     

 

当社のご紹介


当社のAEO認証


 当社グループ全体では、日本、上海、タイ、シンガポールでAEO制度の認定を受けております。

 上海社は、中国のAEOの旧制度でも認証を取得しておりましたが、今年、新制度におけるAEO高級認証企業として認証を受けました。中国税関の信用管理制度によるAEO制度は、内部統制、財務状況、法令遵守、貿易安全といった評価基準で厳正な審査があり、その達成度により高級認証企業、その他企業(通常の管理措置を適用する企業)および信用喪失企業に分類されます。コロナ禍により審査期間が長期化しておりましたが、この度、正式に認証を受けることとなりました。
 この認証取得により、低い検査率・通関手続きの優先処理・通関リードタイムの短縮といったベネフィットを受けることが出来るようになり、お客様にはこれまで以上に高信頼・高品質なロジスティクスサービスを提供することが可能となりました。

 AEOの他、貨物セキュリティに関する認証のTAPA*について、当社では香港社、台湾社、シンガポール社でTAPA ClassAを取得しています。

*TAPA(Transported Asset Protection Association):輸送資産保護協会。このTAPAによる基準は、世界中で警備、安全の実践手法における最高峰のガイドラインとして知られている。ClassがA~Cまであり、ClassAが一番高いレベルとなる。

 当社では、今後もグローバルに高信頼・高品質なソリューション・サービスを提供し、お客様のサプライチェーンのサポートに努めてまいります。ロジスティクスに関するお悩みごとがございましたら、お気軽にお声がけ願います。

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