近年、異常気象が世界中で頻発しています。日本は、梅雨及び台風シーズンを迎え、この時期は特に大規模な水害が発生しやすくなり、物流にも大きな影響を与えます。
今回は、気象庁などのデータ・資料をもとに、日本の異常気象の現状と、物流における取り組みについてご紹介していきます。
どうぞ最後までお付き合い頂けますようお願い致します。
気象庁によると、異常気象とは過去に経験した現象から大きく外れた現象で大雨や暴風等の激しい数時間の気象から、数か月も続く干ばつ、極端な冷夏・暖冬まで含む、としています。(気象庁「気候・異常気象について」(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq19.html)より)
日本は厳しい地質条件により、異常気象による洪水・土砂災害等が多く発生しています。また、地球温暖化が進んでいることで、大雨や短時間強雨の回数も増加しています。
気象庁はホームページで「日本の異常気象」の特徴と要因分析の結果を掲載しています。記録的大雨・高温により毎年のように歴代の記録を更新している状態です(図1ご参照)。
図1:過去3年の主な異常気象
出所:気象庁「日本の異常気象」(https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/longfcst/extreme_japan/index.html)を基に当社作成
また、近年の災害は激甚化しており、被害も非常に大きくなっています(図2ご参照)。
図2:近年の主な豪雨災害による被害
出所:国土交通省「国土交通白書2021」(https://www.mlit.go.jp/statistics/hakusyo.mlit.r3.html)を基に当社作成
参考情報:短時間強雨(1時間あたりの降水量が50mm以上)の年間発生回数は、アメダス統計期間最初の10年間と最近10年間を比べると約1.5倍に増加している(図3ご参照)。「1時間あたりの降水量が50mm以上」の状態とは、非常に激しい雨で、滝のように降る(ゴーゴーと降り続く)状態。屋外は水しぶきであたり一面が白っぽく、視界が悪くなり、車の運転は危険とされている。
図3:短時間強雨(50mm/h以上)の年間発生回数の変化
出所:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html)を基に当社作成
ご参考動画: 滝のように降る雨(非常に激しい雨(1時間に50mmから80mm))
出所:気象庁「気象庁ワークショップ「経験したことのない大雨 その時どうする?」」
※動画再生時は大きな音にご注意ください。
異常気象が物流に与える影響は多岐にわたります。例えば、先述のように頻発している豪雨による水害で見ると、交通機関の乱れによる遅延やキャンセル、道路や鉄道の冠水による物流ルートの遮断、倉庫や交通施設の被害などが挙げられます。交通機関の乱れによる物流の影響は道路や鉄道の遮断により部材・製品の輸送が滞り、供給遅延や在庫不足が生じます。また、倉庫の被害により部材・製品の保管や流通加工、出荷作業が困難になり、スムーズな運営が妨げられます。当然、作業者の出社も困難となり物流は停滞します。
風水害の他、異常な高温や低温も物流に大きな影響を与えます。高温による道路の軟化や貨物の品質劣化、低温による道路の凍結、輸送機器の故障や貨物の品質劣化などが問題となります。
参考情報:市町村道を含めた日本の道路の約80%はアスファルト舗装で、このアスファルトは高温になると柔らかくなる性質をもっています。その下の地盤が劣化している場合は道路陥没を起こしやすいと言われています。高温による道路の軟化は道路陥没を引き起こし物流ルートの遮断リスクを高めると言えます。
図4:物流への影響
物流の効率性や安定性が損なわれることで、物流が停滞しサプライチェーンが寸断され、荷主や消費者にとっても大きな問題となります。
異常気象に対応するため、物流業界では様々な取り組みが行われています。
例えば、気象予測データを活用したルート最適化、災害時の緊急輸送体制の整備、物流施設の耐性向上などが挙げられます。異常気象は与件のものとして考え、適応していくことを目指す取り組みです。もう1つは、異常気象の原因の1つに挙げられる気候変動を緩和しようとする取り組みがあります。環境に配慮した輸送モードや物流手法の導入、再生可能エネルギーの活用などが挙げられます。
気象予測データを活用したルート最適化は、異常気象による交通機関の乱れを予測し、適切なルートを選択することで物流の遅延を最小限に抑えます。また、災害時の緊急輸送体制の整備や物流施設の災害耐性向上により、災害発生時でも物流の継続性を確保することが出来ます。さらに、荷主との在庫管理の見直しにより、異常気象による需要変動に柔軟に対応するサポートが可能となります。
気候変動を緩和する取り組みでは、環境に配慮した物流手法の導入が進んでいます。例えば、鉄道等の省エネルギーとなる輸送手段活用によるCO2排出量の削減、再生可能エネルギーの活用、出荷用梱包の適正化による廃棄資材の削減等に取り組むことで、気候変動の緩和に貢献しようとしています。
<関係各省庁>
●国土強靭化計画
国土強靭化は、「大規模自然災害から国民の生命・財産・暮らしを守り、サプライチェーンの確保など経済活動を含む社会の重要な機能を維持するための政策」(国土強靱化基本計画より)です。2013年12月に『強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法』が公布・施行されました。その後、基本計画や緊急対策などいくつかの政策が決定され、2023年7月28日には新たな国土強靭化基本計画(以下、基本計画)が閣議決定されました。
この基本計画には施策分野ごとの国土強靱化の推進方針があり、個別分野12項目、横断的分野6項目に分かれています。中でも、個別分野の「交通・物流」の施策方針は52件で、他の分野に比べダントツで多い方針数となっています。この「交通・物流」分野では、国土交通省を中心に「道路・鉄道等幹線交通ネットワークの機能強化」、「緊急輸送道路の無電柱化」、「信号機電源付加装置の整備」、「鉄道施設・港湾施設・航路標識・空港施設の耐災害性強化」、「貨物鉄道等の円滑な物流の実現」といった方針が打ち出されています。災害時における物流の安定性と持続可能性を確保していくための重要な方針となっています。
ご参考:内閣官房「国土強靭化基本計画」
(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/kihon.html)
参考情報:「信号機電源付加装置」とは、災害発生時の停電による信号機の機能停止を防ぐため、自動的に発電機を作動させ、信号機に電力を供給する装置のこと。過去の大災害で信号機が機能停止した道路では、警察官による手信号等による交通整理が実施されたが、停止信号は2万基以上となり、滅灯した交差点での事故だけでも2人が死亡、5人が重傷を負った。人手による体制の限界から、こうした装置の整備が重要視されている。
<国土交通省>
●異常気象時における荷主への周知・連絡体制の構築
異常気象を理由に輸送経路の変更や運行中止を行う場合には荷主の理解が不可欠とのことから、国土交通省では荷主所管省庁である経済産業者や農林水産省と連携し、荷主に対して以下の体制により情報の周知や要請を行っています(図5ご参照)。
図5:異常気象時における荷主への周知・連絡体制の構築
出所:国土交通省の資料を基に当社作成
●異常気象時における輸送の目安の設定(2020年2月28日施行)
国土交通省は、2020年2月に、台風等の異常気象時における輸送の在り方の目安を定めた通達を出しました。安全を確保することが困難な状況下で輸送を行った場合、トラックが横転するなどの事故が発生し、ドライバーの生命や身体が害されるおそれがあります。また、トラック運送事業者が行政処分を受ける等し運行計画が崩れ、物流機能が損なわれるおそれがあります。そのため、輸送の安全確保とトラックドライバーの生命や身体、輸送する荷物を守り、持続的な物流機能維持に寄与することを目的に、異常気象時の輸送の目安、輸送を中止した場合の対応、荷主に輸送を強要された場合の通報などが定められました。
図6:異常気象時における措置の目安
出所:国土交通省 報道発表資料「輸送の安全を確保し、持続的な物流機能を維持するため、台風等による異常気象時下における輸送の目安を定めます。(2020年2月28日)」(https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000210.html)
●防災情報の提供
地図上で確認できる通行規制等の道路状況や、注意報・警報の情報提供も充実させています。異常気象の発生前や発生中に、こうした情報にアクセスして最新情報を入手することも大切です。
物流において参考になりそうなサイトを以下にピックアップしました。各サイトの利用上の注意事項をご確認の上、ご活用いただければと思います。
・道路情報提供システム(https://www.road-info-prvs.mlit.go.jp/roadinfo/pc/)
通行規制情報が地図上で確認可能
・川の防災情報(https://www.river.go.jp/index)
現在の気象や災害の情報を、地図や市町村から検索可能(図7ご参照)。
様々な情報を並べて見られる「情報マルチモニタ」でもエリア表示が可能(図8ご参照)。
図7:河川の水位情報
出所:国土交通省「川の防災情報」(https://www.river.go.jp/index)より
図8:情報マルチモニタ
出所:国土交通省「川の防災情報」(https://www.river.go.jp/index)より
<気象庁>
●対策を行う際の基盤的な情報の提供
様々な気候変動対策を立案する上で科学的な基盤となる、気候変動に関する観測成果及び将来予測情報を提供しています。
ご参考:気象庁「各種データ・資料」(https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html)
また、世界で発生する異常気象が、日本の社会経済にも大きな影響を与えるようになっていることから、世界の異常気象等に関する情報も提供しています。
●防災情報の提供
・気象警報・注意報
(https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#5/34.5/135/&elem=all&contents=warning)
メニューから土砂災害、浸水、洪水の「危険度分布(愛称キキクル)」等も選択可能
図9:気象警報・注意報
出所:気象庁「気象警報・注意報」
(https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#5/34.5/135/&elem=all&contents=warning)より
異常気象は物流に大きな影響を与える課題ですが、対応するための取組も進んでいます。国の政策である国土強靭化においても、新技術を活用した気象予測の精度向上や、災害時の事業継続性確保のためサプライチェーンの複線化や工場等の分散で災害に強い産業構造にすること等がうたわれています。今後も異常気象への対策を進めながら、産業界全体で物流の安定性と持続可能性を確保していくことが求められます。
(執筆は2024/6/28時点で、情報は変わる可能性があります)
以上、異常気象への物流の取り組みについてお届けしました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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