ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)は、人間の能力を拡張し経済や社会を発展させてきました。
今後も急激なスピードで高度にデジタル化していくことが見込まれ、デジタル化を支えるための半導体の需要は拡大傾向にあります。2024年の半導体世界市場はAI向けの好調により過去最高の6,112億ドルになると言われています。
半導体は各国で重要視され、外部依存や供給途絶を無くそうと、様々な輸出規制や産業政策が打ち出されています。日本でも、2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」の中で半導体が特定重要物資に指定されています。
半導体はあらゆる産業の電子機器で使われ、今後さらに高度化するデジタル社会を支える重要な基幹部品です。また、半導体の高性能化は消費電力を下げることに繋がるため、カーボンニュートラルにおいても先端半導体の需要は高まっています。しかし、コロナ禍での世界的需給ギャップによる半導体不足は、多くの産業のサプライチェーンや社会に影響を与えました。
こうしたこと等から、世界では、自国での生産強化や調達先の多元化、さらに技術流出を防止する取り組みが進んでいます。
以下から各国の取り組みをご紹介します。
半導体政策といえば、米国による対中規制を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
米国は2018年に「輸出管理改革法」(ECRA)を制定し、従来の輸出管理規則(EAR)の内容を更新しました。そして、半導体を含めた中国原産品に対して追加関税をかけるなど、中国に対する規制を強化していきました。その後は以下のように続きます。
<米国による半導体の対中規制等>
2019年5月 中国・ファーウェイ社と関連企業をエンティティリスト(輸出規制)に掲載
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2020年5月 中国・ファーウェイ社と関連企業への輸出管理強化
| 米国外製造品でも米国技術を用いた製品は対象に
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2020年8月 中国・ファーウェイ社と関連企業へ迂回した調達が出来ないよう規制を強化
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2022年10月 企業を問わず先端半導体の輸出を規制(エンドユース規制)
| 製造装置やソフトウェア、中国における開発・製造への米国人関与も規制
| (日本とオランダも先端半導体向け製造装置の輸出規制強化へ)
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2023年8月 大統領令で半導体、AI、量子の分野で、米国人の中国などへの対外投資を制限
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2023年10月 先端半導体の対象にAI向けを追加し適用範囲を拡大、
| エンドユース規制の対象を中国以外の武器禁輸国等にも拡大、など
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2024年 日本とオランダの製造装置メーカーに対し、米国を経由しないAI半導体向け
| 製造装置の技術提供規制強化の働きかけ
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2025年 対中追加関税(301条関税)の引き上げを予定
半導体の16品目は、2025年1月1日に現在の25%から50%へ引き上げ予定
(見直しの最終決定は2024年8月中となる見込み)
(2024年7月末調査時点)
以上のように関係各国も巻き込んだ防衛策が打ち出されています。
しかし、米国や関係各国の半導体関連企業にとって中国は大きな市場であるため、各企業では慎重な対応が求められています。
反対に米国の攻めの政策といえば、大規模な産業支援策の「CHIPS(チップス)プラス法(CHIPS* and Science Act。CHIPS・科学法とも言われる)」があります。
*CHIPS:Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductorsの略
CHIPSプラス法は、2022年8月に成立した米国国内での半導体製造を促進するための法律です。2021年1月に成立していたCHIPS法(CHIPS for America)の補助金の枠組みに、予算の割り当てを定めた法律です。国内の半導体製造施設に補助金を出すプログラムと、半導体製造装置の購入やその他の設備投資に対する税額控除等が規定されています。基金による支援は総額500億ドルを超え、関連投資には25%の税額控除を行うとしています。
2024年2月には、ジーナ・レモンド商務長官がバイデン政権の半導体政策の講演を行い、2030年までに先端半導体(ロジック半導体)の20%を米国で生産するという目標を発表しました。さらに、米国内の生産体制を強化するため、CHIPSプラス法の助成枠の最低額を超えた追加投資を行うことを表明しました。
次に中国の動向をご紹介します。
中国も米国主導の貿易規制への対応として、自国での生産量や埋蔵量が多い希少金属(レアメタル)について、輸出規制に踏み切っています。2023年8月には、半導体の材料などで使用されるレアメタルのガリウムとゲルマニウムの関連品目の無許可での輸出を禁止としました。政府の審査・承認が義務付けられ、違反した場合には行政処罰等が行われます。さらに、2024年9月から規制対象が追加されます。同じく半導体の材料などに使われるレアメタルのアンチモンの関連品目も無許可の輸出が禁止される予定です。これらのレアメタルは太陽電池など半導体以外のさまざまな部品の製造に欠かせない材料となっています。他国でも代替え生産が可能と言われていますが、コスト面から見て中国の輸出規制は製造業に大きな影響が及んでいくことは想像にかたくありません。
産業政策としては、2015年に発表したハイテク産業育成戦略「中国製造2025」の重点10分野に半導体が含まれており、半導体の自給率を、2020年に40%、2025年までに75%にまで高める目標が設定されています。しかし、2021年時点においても自給率は2020年の目標に届いていない状況と言われています。
また、国内半導体産業支援のため、「国家集成電路産業投資基金」という大規模なファンドが設立されています。2014年の第一期では1,400億元、2019年の第二期では2,000億元を調達。そして、2024年には第三期が設立され、資金調達は過去最大の3,440億元となっています。
先端半導体は米国からの規制により製造装置が買えず生産が厳しい状況です。しかし、自給率を上げるため、先端半導体の製造設備の国産化に注力していると言われています。
一方で、レガシー(非先端)半導体については、中国の世界シェアは高く、先の理由から先端半導体の製造が難しいため、レガシー半導体の生産能力を強化していくと言われています。特に、パワー半導体を中心に設備投資を活発化させています。世界中でEV(電気自動車)シフトを追い風にパワー半導体の競争は激化しており、ここに集中投資する中国が台頭してくるのは時間の問題かもしれません。
そうした状況を懸念し、2024年1月、米国は重要産業における中国製のレガシー半導体の利用や調達に関する調査を開始しました。また、欧州でも、域内の企業による中国製のレガシー半導体の使用状況を正式に調査することが検討されています。
日本では、2023年7月に米国に足並みをそろえる形で、半導体製造装置23品目を輸出管理の規制対象に追加しました。特定の国を念頭に置いていないとしつつも、欧米などの42の国・地域向けは包括許可に、中国を含めたその他の国向けは個別許可にしています。
また、2022年5月に成立した「経済安全保障推進法」の中で、国民の生存や国民生活・経済活動に甚大な影響がある物資の1つとして「半導体」を特定重要物資に指定しました。サプライチェーン上の課題や動向などを踏まえ、物資ごとに効果的な取り組みの方向性を整理した「安定供給確保取組方針」が策定されました。先端半導体の製造基盤整備やレガシー半導体の国内生産能力強化等に向けて、以下のように公的支援が打ち出されています。
令和3(2021)年度補正予算 7,740億円
●特定半導体基金:6,170億円
●半導体生産設備刷新補助金:470億円
●ポスト5G基金:1,100億円
令和4(2022)年度補正予算 1兆3,036億円
●特定半導体基金:4,500億円
●経済安保基金:3,686億円
●ポスト5G基金:4,850億円
令和5(2023)年度補正予算 1兆9,867億円
●特定半導体基金:7,652億円
●経済安保基金:5,754億円
●ポスト5G基金:6,461億円
税制優遇の措置も講じられています。
2024年度の税制改正では、「戦略分野国内生産促進税制」が創設されました。GX、DX、経済安保等の総事業費が大きな戦略分野で、特に生産段階が高コストになる分野を対象に生産・販売量に応じた税控除措置が受けられるようになります。
・具体的対象分野:
電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体(マイコン・アナログ半導体)
・制度設計について
出所:経済産業省「戦略分野国内生産促進税制」(https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/senryaku_zeisei.html)
現在は制度の運用に必要な省令・告示等の規定が準備されている段階です。2025年度の税制改正では、課題になっている産業用地不足への対策となる税優遇措置も検討されています。
次に、製造工程別*の動向です。
前工程を中心に投資が活発化しています。IC系(集積回路)は、ラピダスおよびJASM(TSMC)がメインとなり、対するディスクリート系(個別半導体)は既存半導体メーカーを中心に積極投資が見られます。
後工程に関しては、アオイ電子やレゾナックを中心に先端半導体への投資が見られます。
この後工程に関しては、自国での半導体自給率向上が重要視されることから、強化する流れがあります。自給率を上げるには、近くで消費(使用)する環境であることも必要です。地産地消とすれば「地消」する買う側の自動車・電機精密・家電などのメーカーの国内回帰にも期待したいところです。しかし、最近の国内回帰の動きは大きくなく(下図参照)、人口ボーナスのあるインド、ベトナム、インドネシアなどに工場を増設している様子が見て取れます。そうなると、先端ではない半導体の後工程メーカーは、引き続き東南アジアを確かなものにしていく流れではないかと考えられます。
*半導体の製造工程は、設計、前工程、後工程に大きく分けられ、企業によって担当する領域が異なります。前工程では、シリコンウェハー上に電子回路を形成します。後工程では、前工程で作成されたウェハーを個々のチップに切り出し、研磨、配線、封止などを行い、最終的に使用可能な状態に仕上げます。
図:サプライチェーン見直しの状況
(回答者:金融保険業を除く民間法人企業の大企業(資本金10億円以上))
右図の⑨海外拠点の国内回帰では、回答者全体の6%が実施と回答
出所:日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査(2024年6月)」(https://www.dbj.jp/investigate/l)
今後も目が離せない半導体について、引き続き注視していきたいと思います。
以上、ここまで半導体マクロ動向についてお届けしました。
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(執筆は2024/8/27時点で、情報は変わる可能性があります)
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