直近の物流業界では、独占禁止法の「物流特殊指定」の改正確定、中東情勢を背景とした航空貨物マーケットの変化、そして2030年度までを見据えた新たな物流政策の提示など、実務にも影響する重要な動きが相次いでいます。本記事では、荷主企業・物流事業者の双方が押さえておきたい3つの注目トピックスを整理してご紹介します。制度対応やコスト動向の把握に、ぜひご活用ください。
今月の注目テーマは「法改正」「航空貨物市況」「物流政策」の3本です。
荷主・物流担当者が押さえるべき実務影響をコンパクトに整理してお届けします。
\ この記事で分かること・要点 /
6月17日、公正取引委員会は、独占禁止法の物流取引に関する告示の改正、ならびに製造業等の支払に関する告示の新設を確定、公表しました。
これらの告示は2027年4月1日に施行され、適用は、施行日以降に実施された取引から対象となります。
違反した場合は、公正取引委員会による調査後、排除措置命令や警告・注意等といった行政処分の対象となります。
排除措置命令を受けたり、確約手続*で確約計画が認定されたりした場合は、社名が公表されます。
排除措置命令が確定した後に違反した場合、「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」といった刑事罰の対象となります。
*独占禁止法違反の疑いについて、公正取引委員会と事業者との間の合意により解決するための手続き
正式名称は、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法」(以下、物流特殊指定)です。元々、荷主と物流事業者間の取引で優越的地位の濫用を規制するために指定された独占禁止法上の告示です。
従来の「物流特殊指定」は、運送サービス又は倉庫における保管サービスにおいて、荷主と物流事業者の資本金額や地位が図1の関係にある場合が対象となります。禁止行為は9つあり、荷主に違反行為が認められた場合には排除措置命令や警告・注意等が行われます。
[図1]従来の独占禁止法「物流特殊指定」の概要
出所:公正取引委員会「物流特殊指定の考え方についての相談」 https://www.jftc.go.jp/dk/butsuryu.html
今回の改正点は次の2つです。
・取適法(改正下請法)にあわせた改正
・着荷主の規制を追加
具体的に説明します。
【改正ポイント1:取適法施行に伴う改正】
これまで、発荷主から元請運送事業者への運送業務の委託は、独占禁止法の枠組みである「物流特殊
指定」により規制されていました。しかし、無償で荷役・荷待ちを行わされているなどの問題が顕在化したため、機動的に対応できるよう、取適法(改正下請法)の対象取引に追加されました(2026年1月1日に改正法が施行)。
今度は、その取適法(改正下請法)との整合性を踏まえ、「物流特殊指定」側に、取適法と同様の従業員基準が適用要件に追加されるなど、取適法との整合が図られました。
<特定荷主と特定物流事業者との取引について追加された規定>
・要件に従業員基準を追加(図2)
・支払遅延の禁止規定に手形払等を追加(図2)
・協議に応じない一方的な代金決定の禁止規定を追加(図2)
・取適法の役務提供委託に該当する場合を適用対象に追加
[図2]改正後の荷主と物流事業者の関係と改正後の禁止行為
出所:公正取引委員会「リーフレット(物流特殊指定)」 https://www.jftc.go.jp/file/leaflet_buturyu.pdf を当社で一部加工
【改正ポイント2:着荷主の規制を追加】
これまで独占禁止法や取適法で規制されてこなかった、特定着荷主と特定発荷主との取引が対象に追加されました。特定着荷主による、特定発荷主の利益を不当に害する行為が禁止されます。
<背景>
物流現場において、運送事業者が、直接契約関係のない着荷主から長時間の荷待ちや契約外の荷役作業・附帯業務(荷下ろし、配送時のパレットやカゴ台車の提供など)を強要されることが指摘されてきました。運送事業者は、こうした契約外の荷待ちや荷役等に応じた適切な費用を、契約先である発荷主や元請運送事業者に請求することになりますが、完全には収受できていない問題が存在していました(図3)。
[図3]着荷主による契約外の荷待ち・荷役等要請に係る問題整理
出所:公正取引委員会 企業取引研究会 令和7年11月18日 第3回 事務局資料
https://www.jftc.go.jp/file/02_siryo2_r7_3.pdf
どの取引を規制するか含めて議論がされ、これまで規制のなかった発荷主と着荷主の取引が対象になりました(図4)。
なお、取引上の地位の優劣については、事業規模、取引依存度、取引先変更など状況に応じた要素が考慮されることになります。
[図4]改正による特定着荷主と特定発荷主との対象取引
出所:公正取引委員会「リーフレット(物流特殊指定)」 https://www.jftc.go.jp/file/leaflet_buturyu.pdf を当社で一部加工
今回新たに規定された「支払告示」の正式名称は、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(以下、支払告示)です。
新設「支払告示」では、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託(取適法と同様)に係る代金を、正当な理由がある場合を除き、委託事業者が受託事業者に60日以内に支払わないことを禁止するとしています。
対象取引は、上述の通り、取適法と同じですが、取適法のように資本金の額や従業員数のような規模要件はありませんので、多数の企業が適用対象となるため注意が必要です。
[図5]改正による対象取引
出所:公正取引委員会「リーフレット(支払告示)」 https://www.jftc.go.jp/file/leaflet_shiharai.pdf を当社で一部加工
「正当な理由がある場合」については、たとえば、製造委託等において取引の実態に即した合理的な理由に基づいた条件で、委託事業者と受託事業者間の合意がある場合、等が挙げられます。
ただし、従来の契約・支払条件で60日を超えた支払期日が定められていた、というだけでは「合理的な理由」とは認められないとしています。
どのような場合が該当するか、現時点では支払告示の運用基準や、公聴会や意見公募での結果に対する回答に具体例が示されていますので、以下参考情報のリンクを参考にして頂ければと思います。
実務上は、委託条件や支払条件の見直しに加え、着荷主を含む取引関係の整理が重要になります。2027年4月1日の施行まで残された時間は限られます。荷主企業・物流事業者ともに、契約や運用フローの確認を早めに進めることが望まれます。
📝参考情報
・公正取引委員会 報道発表資料「(令和8年6月17日)「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法」、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」等について」 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jun/260617_kokuji.html
・公正取引委員会「物流特殊指定の考え方についての相談」 https://www.jftc.go.jp/dk/butsuryu.html
・公正取引委員会「支払告示の考え方についての相談」 https://www.jftc.go.jp/dk/shiharai.html
・当社ブログ「価格転嫁の環境整備強化|下請法は取適法へ」(2025年11月)
https://www.nittsu-necl.co.jp/blog/20251127
中東情勢が悪化した2月末から燃油価格が急騰し、従来80~90ドル程度で推移していたシンガポールケロシン価格が、月間平均は200ドルに迫る価格まで上昇。この影響で航空会社の設定するサーチャージも急騰し設定内容に変更が生じました。3月末以降は右肩下がりに推移しており、状況が落ち着くことが期待されます。
燃油不足、価格高騰から運休や減便を発表する航空会社も出ています。
LH(ルフトハンザドイツ航空)、SK(スカンジナビア航空)など欧州系航空会社の国内線や近距離路線が中心であり、日本発着便に大きな影響は出ていないものの、各航空会社の動きに注意が必要です。機材サイズ縮小による燃油コスト削減も行われており、搭載スペースの減少が懸念されます。
国際輸送に限らず物流に係るコストが中東情勢を受け増加傾向にあります。
特にナフサ不足からくる物流資材への影響が大きく、ストレッチフィルムやビニールシート等の価格高騰や調達納期の遅れ等が発生。資材の利用を抑制する施策をとりたくなりますが、これからの季節は慎重さが求められます。雨季に入り、雨風対策として梱包の重要性が一層増すため、不用意な資材の節約は避ける必要があります。
特に、欧米国では主要空港までを航空便で手配し、以降の国内転送はトラックで行うケースが少なくありません。サーチャージの転嫁タイミングが早い航空運賃に比べて、内陸費用は遅れて反映される傾向があるため、今後こうしたコストの上昇が見込まれます。
足元では燃油価格の上昇は一服しつつあるものの、運航体制や資材調達、内陸費用などへの影響は継続的に注視が必要です。見積条件や梱包仕様を含めた総合的な確認が求められます。
ここでは、新大綱の概要についてポイントを絞ってお届けします。
新大綱で、物流は企業の存続を左右する「社会インフラ」と定義されました。特に大型荷主への「物流統括管理者(CLO)」選任義務化(2026年4月全面施行)により、荷主の物流部門は経営層から「具体的成果」を求められるようになり、物流は「コスト」から「経営課題」へとシフトしています。2030年度までの期間を「物流革新の集中改革期間」と位置付けており、物流事業者にとっても、単なる「運ぶ」機能の提供から、「新たな価値を創造するサービス」への転換を迫られる、極めて重要な指針です。
前大綱では、物流DX・標準化、担い手にやさしい物流、強靭で持続可能な物流ネットワークの3方向で施策が実施されました。その結果、デジタル化や標準化、荷主のご理解、再配達削減など一定の進展が見られました。しかし、ドライバーの賃金・労働時間・若年層比率・労働生産性などは改善途上で目標達成に至っていません。2024年問題の一部は官民の対応で概ね克服しましたが、2030年に向けた輸送力不足への備えは引き続き必要とされています。
新大綱では、次の5つを柱に施策が推進されていきます。
・サービスの供給制約に対応するための徹底的な物流効率化
・商慣行の見直し、荷主・消費者の行動変容、産業構造の転換
・物流人材の地位・能力向上と労働環境改善
・物流標準化と物流DX・GXの推進
・国際情勢や災害に対応したサプライチェーンの高度化・強靱化
計画期間となる2030年までを物流革新の「集中改革期間」と位置づけ、官民一体で重点的に改革を進めるとしています。進捗管理のため、多数のKPI(指標)が設定されています。
以下は、主なKPI例です。
・自動運転トラック導入台数:1,000台(2030年度)
・トラック積載効率:41.3% → 44%
・ドライバー1人当たりの荷待ち・荷役等時間:年間約750時間 → 625時間
・物流業の労働生産性:2023年度比で2割程度向上
・トラックドライバー年間所得:全産業平均まで引上げ*(2030年)
・トラックドライバー平均労働時間:全産業平均まで引下げ*(2030年)
*ご参考:トラックドライバー賃金構造
出所:厚生労働省 賃金構造基本統計調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429 より当社作成
※事業規模:10人以上。一般労働者の「職種」で選別。全産業は「産業大分類」のデータを使用
新大綱は、物流を単なる輸送機能ではなく経営課題として扱う方向性を明確にしています。荷主・物流事業者ともに、効率化だけでなく持続可能性や人材確保を含めた中長期対応が重要になります。
📝参考情報
・総合物流施策大綱(2026年度~2030年度) https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/butsuryu03100.html
以上、2026年6月時点で押さえておきたい物流トピックスをご紹介しました。今後も、物流実務に役立つ制度・市況・政策動向をお届けしてまいります。
※なお、当記事でご紹介する情報、データは記事作成時点(2026年6月24日)で公表されているもので速報値も含みます。公表後に修正される可能性がございますので、ご利用の際は情報元にアクセスいただきご確認頂くことをおすすめいたします。