目次
価格転嫁の環境整備強化|下請法は取適法へ
はじめに
2026年1月1日から、改正下請法(変更後略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法(とりてきほう))が施行・適用されます。特に製造業は多層的な下請け構造を持ち、取引関係が複雑なため、今回の改正は大きな影響を及ぼします。すでに多くの企業が準備を進めていますが、短期間での対応に苦労している様子も報じられています。
●改正のスケジュール
[下請代金支払遅延等防止法 及び 下請中小企業振興法の一部を改正する法律案]
・2025年3月11日 閣議決定
・2025年5月16日 成立
・2026年1月1日 施行
[規則・運用基準]
・2025年10月1日 公布・公表
・2026年1月1日 施行
下請法改正の背景
改正の目的は、労務費等コスト上昇局面での価格転嫁を阻害する商慣習の是正と、サプライチェーン全体の透明性・公正性の向上です。従来の「下請法」という名称も改められ、「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されます。「親事業者」は「委託事業者」へ、「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更され、発注者と受注者の上下関係をイメージさせる用語も変更されます。そのほか、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されます。
改正の主なポイント
図1は、適用対象の拡大と、委託事業者(旧親事業者)の4つの義務ならびに11の禁止行為の改正内容が図解されたものです。
[図1]取適法(改正下請法)の概要
出所:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」
(https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html)説明資料より
改正のポイントは以下となります。
●改正の主なポイント
<適用範囲の拡大>
新たに「特定運送委託」が対象に追加。従業員数基準も導入され、対象取引を委託する際は、相手方の資本金だけでなく人数確認も必要になりました。
<新たな禁止行為>
協議を行わず一方的に代金を決定する行為や、手形支払いの禁止が追加されました。交渉なしで価格据え置きをすると違反行為となることが法律で定められたことは、委託事業者にとって大きな転換期となることでしょう。
<面的執行の強化>
事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与。また、省庁間の相互情報提供に係る規定が新設されました。
<その他の改正>
製造委託の対象物として、金型以外の木型や樹脂型等も追加されました。
●取適法の改正事項まとめ
✓中小受託取引適正化法(通称:取適法) へ
✓親事業者は委託事業者へ、下請事業者は中小受託事業者へ
2.適用対象の拡大
✓適用基準に「従業員基準」が追加
✓対象取引に「特定運送委託」が追加
3.禁止行為の追加
✓協議に応じない一方的な代金決定の禁止
✓手形払ならびに支払期日までに金銭を得ることが困難な支払方法が禁止
4.面的執行の強化
✓事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限を付与。省庁間の相互情報提供に係る規定を新設
5.その他
✓製造委託の対象に金型以外の型等が追加
✓書面交付を電子メールで行うことは承諾不要に
✓代金を減じた場合も遅延利息の対象に追加
✓すでに違反行為が行われていなくても勧告可能に(勧告は原則公表)
また、あわせて「下請中小企業振興法」も「受託中小企業振興法」(振興法)と名称を改め、改正されました。取適法が規制法規であるのに対して、振興法は中小受託事業者を育成、振興する支援法としての性格を有するものです。
改正後の振興法では、直接の取引先から更に先の取引先を含めた事業者間の協力を支援できるようになりました。適用対象も拡大され、①発荷主と運送事業者との取引(取適法と同様)、②従業員の大小関係がある受託事業者(取適法より広い)となりました。
●企業の取り組み
企業は、
・従業員数基準により新たに対象となる取引先の確認
・特定運送委託に該当する運送取引の特定
・契約書、発注書の見直し、書面交付・管理体制の整備
・手形廃止等、支払条件見直し
などの改正対応事項が山積みとなっています。
ある大手メーカーは、発注プロセスの見直しや手形廃止、別のメーカーでは定期的価格協議を自ら申し出る体制の構築、社員への教育などに取り組まれています。ある大手商社では幅広い業種が対象となるため一律的な対応が難しく、都度協議要請に応じながら協議内容・結果を記録する社内体制を敷いていると報じられています。
今回の改正で、新たに「特定運送委託」が対象に追加されました。
この「特定運送委託」について掘り下げて解説します。
これまで、発荷主から元請運送事業者への運送業務の委託は、独占禁止法の枠組みである「物流特殊指定」により規制されていました。しかし、無償で荷役・荷待ちを行わされているなどの問題が顕在化したため、機動的に対応できるよう取適法の対象取引に追加されました。
「物流特殊指定」は、運送サービス又は倉庫における保管サービスにおいて、荷主と物流事業者の資本金額や地位が図2の関係にある場合が対象となります。禁止行為は9つあり、荷主に違反行為が認められた場合には排除措置命令や警告・注意等が行われます。
[図2]独占禁止法「物流特殊指定」の概要
出所:公正取引委員会「物流特殊指定の考え方についての相談」(https://www.jftc.go.jp/dk/butsuryu.html)
今回の取適法では、発荷主が元請運送事業者へ委託する運送業務のうち、図3の4つのタイプの取引が「特定運送委託」として規制対象に追加されました。
対象となる運送業務は限定されているため、企業では、自社が委託するどの運送取引が該当するかを特定する必要があります。また、先に施行された改正貨物自動車運送事業法では、荷主の発注書面交付義務が設けられたため、その対応との二重の調整が必要になっていきます。
[図3]取適法で追加された「特定運送委託」の類型
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【類型1】 ・委託事業者:物品の販売を行っている事業者 ・取引の内容:当該物品の販売先に対する運送を他の事業者に委託する場合 |
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【類型2】 ・委託事業者:物品の製造を請け負っている事業者 ・取引の内容:当該物品の製造の発注者に対する運送を他の事業者に委託する場合 |
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【類型3】 ・委託事業者:物品の修理を請け負っている事業者 ・取引の内容:当該物品の修理の発注者に対する運送を他の事業者に委託する場合 |
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【類型4】 ・委託事業者:情報成果物の作成を請け負っている事業者 ・取引の内容:当該情報成果物が記載されるなどした物品の作成の発注者に対する運送を他の事業者に委託する場合 |
出所:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」
(https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html)説明資料を一部加工して作成
取適法の運用基準では、「特定運送委託」で想定される委託事業者の違反例が示されていますので、いくつかご紹介します。
✔ 「買いたたきの禁止」における違反行為事例
- 燃料高騰や労務費上昇が明らかな状況で、中小受託事業者がそれを理由に単価引き上げを要求したにもかかわらず、十分な協議なしで単価を据え置いた。
✔ 「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」における違反行為事例
- 委託事業者が自身の事業所構内での事故防止のためとして、荷役作業などの立会いのために中小受託事業者の従業員を派遣させた。
- 運送を委託している中小受託事業者に委託した取引と関係のない貨物の積み下ろし作業をさせた。
- 物流業務に附帯して輸入通関業務を委託する際、中小受託事業者に関税・消費税納付を立替えさせ、立替えに要した金銭の支払いを求められても応じなかった。
✔ 「不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止」における違反行為事例
- 運送を行うとされていた当日の朝に、委託事業者が発注元からの発注取り消しを理由に運送発注を取り消したが、中小受託事業者が負担したキャンセルに伴う費用を支払わなかった。
- 中小受託事業者が指定時刻に貨物の積み込み場所へ到着したが、委託事業者の都合により長時間待機させ、その待ち時間について必要な費用を負担しなかった。
- 委託事業者の都合により貨物の納品日時を当初の予定より遅い日時に変更し、運送をした中小受託事業者に長期間貨物を保管させたが、保管費用を負担しなかった。
違反時の罰則
取適法に違反した場合、勧告、指導のほか、50万円以下の罰金が科されることがあります。委託事業者の義務「発注内容を明示する義務」、「取引に関する書類等を作成・保存する義務」に違反したときは最高50万円の罰金が科せられ、違反者である個人、会社も罰則の対象となります。
委託事業者の義務以外では、報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告や、立入検査の拒否、妨害、忌避についても同様に最高50万円の罰金が科せられます。図4は、取適法事件処理の流れを示したものです。
[図4]取適法の事件処理フローチャート
出所:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」
(https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html)説明資料より
今回の改正で、すでに違反行為が行われてない場合でも特に必要と認められる場合には、違反事業者に対し勧告できるようになりました。
<勧告件数>
2024年度の勧告件数は平成以降最多の21件となりました(図5ご参照)。公正取引委員会の定期調査対象の拡大や、相談窓口ならびに普及啓発活動の拡充・強化など、積極的な取り組みで件数は拡大しています。
また、当該年度の21件の勧告件数のうち、9件が金型の長期間にわたる無償保管でした。2025年度は11月13日現在で同勧告件数が13件に及んでいます。公正取引委員会と中小企業庁では型の無償保管について監視を強化するとしています。
[図5]勧告件数の推移
出所:公正取引委員会「(令和7年5月12日)令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250512.html)を基に作成
他法規との関係
サプライチェーン全体で取引の適正化の実現を図っていくために、取適法以外の法規制でも類似する内容が定められていますので、取適法との関係を含めていくつかご紹介します。
①独占禁止法「優越的地位の濫用」(公正取引委員会)
取適法は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」規制を補完する関係です。
独占禁止法で当該行為の特定をするには、対象の事業者が優越的地位にあるかどうかを含め個別認定する必要があり、法執行に時間がかかります。一方、取適法では、適用対象となる取引範囲を、資本金、従業員数(今回追加)、取引内容から定めます。この条件に合う発注者は「委託事業者」であり「優越的地位にある」ものとなるので、迅速かつ効果的に規制できます。
②独占禁止法「物流特殊指定」(公正取引委員会)
※前述 ここでFOCUS! をご参照ください。
③フリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会)
中小受託事業者がフリーランスにも該当し、委託事業者から、取適法と「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス法)の両方に違反する行為が行われた場合は、原則としてフリーランス法が優先適用されます。
④貨物自動車運送事業法(国土交通省)
◆附則第1条の2に基づく荷主への是正指導指針
適正取引を阻害する行為の是正のため、2023年7月に「トラックGメン」が創設されました。2024年11月には、物流全体の適正化を図る観点から「トラック・物流Gメン」に改組されました。
これまでは、中小受託事業者がトラック・物流Gメンに申告しても取適法のような委託事業者における「報復措置の禁止」規制はありませんでした。今回、取適法で事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与されたことで、当該行為にも「報復措置の禁止」が適用されるため、安心して申告出来るようになりました。
ちなみに、取適法にも「取引Gメン(旧 下請Gメン)」という取引調査員が中小企業庁及び全国の地方経済産業局に配置されています。中小受託事業者などにヒアリングを行い、国や業界が定める関連ルール作りや改訂に反映させる取り組みを行っています。
◆運送契約締結時等の荷主等の発注書面交付義務
荷主は自らの事業において、貨物自動車運送事業者へ運送委託する場合、書面交付が義務づけられています。運送の役務の内容及び対価等について記載した書面を、相互に交付しなければなりません。この交付義務は、取適法における「特定運送委託」との二重の規制となります。
違反した場合、荷主への罰則はありませんが、トラック・物流Gメンによる是正指導の対象となる可能性があります。くわしくは、こちらのブログ2-2をご覧ください。
⑤取適法の適用対象以外の支払適正化要請(公正取引委員会、中小企業庁)
公正取引委員会は、支払手段の適正化は、「取適法」の適用対象とならない取引を含めサプライチェーン全体で取り組むことが重要として、中小企業庁と連名で各事業者団体にサプライチェーン全体での支払適正化に関する要請文を出しました。
企業が手形廃止やサイト短縮に取り組みづらい理由として、発注元からの入金サイトが長いといった理由が多いとしています。一次受託事業者は発注元と二次受託事業者の間に挟まれ、資金繰りの重い負担がかかる現状を鑑みて、サプライチェーン全体で支払手段の適正化に努めることが重要としています。
要請文では、とりわけ、建設工事、大型機器製造などの納期が長期にわたる取引の改善が求められています。
ご参考リンク:公正取引委員会「サプライチェーン全体での支払の適正化に関する事業者団体等への要請について」(2025年11月11日)
(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/nov/251111_yousei.html)
まとめ
2026年1月1日から施行される改正下請法(取適法)は、多くの企業にとって取引慣行の見直しを促す重要な法改正です。施行直前のいま、各社が契約・決裁・社内体制の整備を進めている状況が新聞でも報じられています。こうした影響は、業界全体の取引のあり方を見直す契機となるでしょう。
以上、ここまで『価格転嫁の環境整備強化|下請法は取適法へ』をお届けしました。お読みいただきありがとうございました。
(執筆は2025/11/20時点で、情報は更新される可能性がございます)
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