過去に記録的豪雨災害が発生したこの時期(6月下旬~7月初旬)は、社会的にも気象情報に関心が高まる時期だと思います。
今回のニュースレターは、そうした時期に毎年お届けしています「異常気象」をテーマに、製造業を中心とした企業の事業活動との関係・影響をご紹介していきます。
お時間がありましたらぜひお読みください。
※異常気象とは:一般には、過去に経験した現象から大きく外れた現象のことを言います。大雨や暴風等の激しい数時間の気象から、数か月も続く干ばつ、極端な冷夏・暖冬まで含みます。また、気象災害も異常気象に含む場合があります。(気象庁WEBサイトより)
▼過去のニュースレター(リンク)
「異常気象|物流の取組み編」(2024年6月) 「異常気象と物流」(2023年6月)
異常気象は近年、国内外で激甚化・頻発化しています。個々の気象現象を地球温暖化と結びつけることは難しいと言われていますが、世界中で観測されている豪雨や干ばつは、長期的な地球温暖化の傾向と関係しているという見解が示されています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書では、「人為的な気候変動は、既に世界中の全ての地域において多くの気象と気候の極端現象に影響を及ぼしている。このことは、自然と人々に対し広範な悪影響、及び関連する損失と損害をもたらしている(確信度が高い)。」と書かれています。
2025年は、世界・日本の天気予報を見ると少なくとも夏までは平年より高い気温が続くと言われています。近年の傾向から、それが気候の極端現象=異常気象に繋がっていくのではないかと思われます。
ここでは、世界・日本における今年の初夏~夏にかけての気温・降雨についてご紹介します。
国際連合の専門機関である世界気象機関(WMO)によると、6月~8月にかけてほぼすべての陸地で平年を上回る気温が予測されています。とくに、南緯60度から北緯60度の間の陸地でその可能性が高いとされています。降水量は、地域によってばらつきが出るという予測です(2025年5月27日現在、図1)。
また、2025年から2029年にかけて、80%の確率でこの5年間のうち少なくとも1年が2024年を上回り、観測史上最も暑い年になるとされています(2025年5月28日現在)。
[図1]2025年6月~8月の地表気温と降水量の確率的予測
出所:世界気象機関(WMO)「Global Seasonal Climate Update for June-July-August 2025」
(https://wmo.int/media/update/global-seasonal-climate-update-june-july-august-2025)
気温(左図) :赤は平年より高い、グレーは平年並み、青は平年より低い
降水量(右図):緑は平年より多い、グレーは平年並み、オレンジは平年より少ない
さらに、一部の地域についてご紹介します。
・南アジア
6月~9月は南アジアの大部分で平均以上の気温が予想され、ほとんどの地域で平年を上回る降雨量の可能性が最も高いとされています。2025年から2029年にかけても平均よりも雨が多い傾向は続くと予測されています。
気象庁による6月~8月の天候の見通しでは、日本は暖かい空気に覆われやすいため、全国的に気温は高く、さらに東・西日本では暖かく湿った空気の影響を受けやすいため、降水量は平年並みか多いとされています。
近年、甚大な被害をもたらす「線状降水帯」が注目されています。線状降水帯とは、線状の降水帯により、非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況のことです(図2ご参照)。
だいたい6月から発生し始め秋頃まで続きます。2024年の発生件数は183件でした(図3ご参照)。
発生のメカニズムに未解明な点があること等から、いつ・どこで発生し、どのくらいの時間続くのかといった正確な予測が非常に難しいとされています。現在、この気象現象の予測精度向上に向けた技術開発・研究が進められています。
今年は6月9日19時00分に鹿児島県 大隈地方で観測されました(6月25日8時50分現在)。
[図2]線状降水帯の例と代表的な発生メカニズム
出所:気象庁「線状降水帯に関する各種情報」(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html)
[図3]2024年の線状降水帯が観測された県と観測件数
出所:気象庁「線状降水帯の事例」(https://www.data.jma.go.jp/senjo_list/list_senjoukousuitai.html)を基に当社作成
※線状降水帯の事例として掲載する基準
当該時刻、10分先、20分先、30分先のいずれかにおいて、以下の基準をすべて満たす場合に掲載
1. 前3時間積算降水量(5kmメッシュ)が100mm以上の分布域の面積が500km2以上
2. 1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
3. 1.の領域内の前3時間積算降水量の最大値が150mm以上
4. 1.の領域内の土砂キキクルにおいて土砂災害警戒情報の基準を超過
(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクルにおいて警報基準を大きく超過した基準を超過
ここまで今年の初夏~夏にかけての気温・降雨についてご紹介しました。
今年も世界的に非常に暑くなることが予測され、異常気象の発生も想像されます。降雨は地域差がありますので、高温と少雨が重なる地域は干ばつによる火災、水不足による企業活動への影響等が懸念されます。
次は、異常気象が企業の事業活動に与える影響をご紹介します。
異常気象による気象災害は増加しています。図4のように、これまでに多くの大規模気象災害が発生し、たくさんの人命を奪っていきました。
[図4]世界の主な異常気象・気象災害(2015年~2021年発生)
出所:国土交通省「国土交通白書2022 気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化」(https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/nj010000.html)の図に加工して作成
一人ひとりが出来ることとしては、日ごろからご家族等で、浸水や土砂災害の危険性をハザードマップ等で確認し、避難経路・避難先を備えておくことが重要となります。災害への直接的な対策ではありませんが、ご家族との安否確認等連絡方法も決めるということも備えとして大切になっていきます。
日本においてハザードマップは、誰でも閲覧できるよう整備されています。
以下のサイトでは、地図上で災害リスクを確認できるほか、市町村が法令に基づき作成・公開した詳細なハザードマップ資料もまとめて掲載されています。
・国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
URL https://disaportal.gsi.go.jp/index.html
洪水災害から命を守るために、気象庁が公開している洪水警報情報も参考になります。周囲が危険な状態になる前に情報を確認し早めに避難することが大切です。
・気象庁「洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)」
URL https://www.jma.go.jp/bosai/risk/
また、安否確認は個人用/企業用で無料アプリも多く出ています。もしお勤め先の企業等で安否確認アプリが導入されていましたらご家族ともやりとりが出来る機能が付いていることも多いため、ご確認いただくとよいと思います。
世界でもハザードマップを整備・公開している国は多く、また、日系企業でも保険業界の企業がツールを提供していることが見られます。一部は無料で見られるサイトもありますのでご参考に紹介します。
・MS&ADインターリスク総研株式会社「洪水リスクファインダー」
※東京大学と芝浦工業大学との共同研究
※ご自身の責任でご利用ください
高温・多湿となる日本では、熱中症対策も重要になっています。日本では、熱中症で人命を失うことがないよう事業者への規制も強化されました。
消防庁では毎年5月分から全国の熱中症による救急搬送人数を調査・公開しています。2025年5月の搬送人数は前年比で1割弱減少していますが、傷病程度別で見ますと、「重症」が前年比1.4倍の60人となっています。
救急搬送人数の年間推移は、2021年に大幅に減少したものの翌年から急増し、2024年は97,578人と10万人に届く勢いで増加しています。調査データが揃っている2015年から見ると、2024年の熱中症搬送人数は過去最高を記録しました。
関係各省庁などは熱中症アラートを確認し、危険な暑さから身を守るよう注意を促しています。
・環境省「熱中症予防情報サイト」熱中症特別警戒アラート/熱中症警戒アラート
URL https://www.wbgt.env.go.jp/alert.php
厚生労働省では、熱中症対策のため労働安全衛生規則を改正し、事業者に対策を義務付ける法改正を行いました。施行は2025年6月からとなります。
義務化は気温31度以上で継続1時間以上、1日4時間を超えることが見込まれる作業等に対して対策を怠った場合に限定されます。対応を怠った場合労働安全衛生法22条違反として6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
次に、サプライチェーンにおけるリスクをご紹介します。
経済産業省によると、サプライチェーンとは「商品の企画・開発から、原材料や部品などの調達、生産、在庫管理、配送、販売、消費までのプロセス全体を指し、商品が最終消費者に届くまでの「供給の連鎖」である。(中略) また、サプライチェーンは経済活動のグローバル化に伴い、国境を越えて構築され、複雑化している。」(経済産業省「通商白書2021」第Ⅱ部 第1章 第2節サプライチェーンリスクと危機からの復旧 https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2021/2021honbun/i2120000.html)と説明しています。
昨今、サプライチェーンにおいて、世界規模での不確実性の高まりから様々な領域で多層的に供給制約が発生しています。次の図5は「サプライチェーンにおける供給制約の関係図」です。供給制約がかかる要因例の1つとして、気候変動/異常気象が挙げられています。
[図5]サプライチェーンにおける供給制約の関係図
出所:経済産業省「通商白書2022 第Ⅰ部 第1章 第2節 世界的な供給制約の高まり」
(https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/2022honbun/i1120000.html)を加工して当社作成
実際に、世界各地での豪雨やハリケーン、寒波や熱波等の異常気象はサプライチェーンに大きな損害をもたらしています。影響例をご紹介します。
日本は、世界の中でもその地形や気象条件から自然災害が発生しやすく、豪雨や猛暑等は常に工場や倉庫、輸送網の大きなリスクになっています。
ここまでご紹介したリスクのほかに、極端な温度による部材・製品の品質劣化リスク、洪水等による建物・倉庫浸水リスクや輸送網ダメージにより販売機会が損なわれるリスク、部材仕入先地域での物流停滞による生産遅延や仕入れ価格高騰のリスクなど、さまざまな影響が挙げられます。
ここまでお伝えしたこと等から、異常気象は一定の業界に限らず、事業活動を行う企業にとって無視できないリスクとなっています。
実際の企業の意識はどうなっているでしょうか。
事業に影響を及ぼす変化の意識調査から見ていきます。経済産業省(受託者:アクセンチュア)による『2025年版ものづくり白書』の「我が国製造業を取り巻く社会情勢変化」の項では、「事業に影響を及ぼす社会情勢の変化」に関する調査で「大規模な自然災害(台風、洪水、地震、森林火災等)」を挙げる事業者は15.7%でした。
これは、「地政学リスク」を挙げる事業者12.1%を超えており、「法改正やルール形成」を挙げる事業者16.9%に近づく比率となっています。それだけ、大規模自然災害は企業にとって影響を与える重要なファクターになっていると言えます(n=3,007、複数回答)。
(2025年版ものづくり白書 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/index.html)
事業継続のため、BCPを策定する企業も増加しています。
内閣府による「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、BCP策定率が一番高い業種は「金融・保険業」(76.6%)です。次に「運輸業・郵便業」(66.2%)、「建設業」(63.4%)が続きます。コロナ禍や大規模地震を受けて、両業種の継続が復旧に大きな影響を与えるという意識が強まったことにより増加していると分析されています。
[図6]業種別事業継続計画(BCP)策定状況
出所:出所:内閣府防災担当「令和5年度企業の事業継続及び防災に関する実態調査」
(https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/index.html) ※回答数 30 社以上で連続性のある業種が掲載されています。
以上、ここまで異常気象による企業活動への影響をお届けしました。
世界・日本において社会的、経済的影響が非常に大きくなっている異常気象について、引き続き情報を集めお届けして参ります。
※なお、当記事でご紹介するデータは記事作成時点(2025年6月25日)で公表されているものです。公表後に修正される可能性がございますので、ご利用の際は情報元にアクセスいただきご確認頂くことをおすすめいたします。
ここからは、当社の関連物流サービスを紹介します。
当社の環境配慮型ロジスティクスサービス、環境試験サービスについて紹介します。
輸送モード見直しや輸送効率化によるCO2排出量削減、適正包装での梱包・包装材削減による省資源化など、環境に配慮したロジスティクスサービスを各種ご用意しております。
当社設備の恒温恒湿室を用いて、製品の輸送・保管・使用など、さまざまな状況下において、天候や外気温が製品に与える影響を試験・評価するサービスをご提供しています。温湿度の影響を受けやすい製品に対して耐久性を確認することも可能です。
以下のボタンからカタログをダウンロードいただけます。
異常気象による災害発生時であっても事業活動を継続するため、電力の安定供給を実現する蓄電池システムの役割は重要です。
当社は、蓄電池メーカー様、蓄電池ソリューションのインテグレーター様などへ、蓄電池国内外一貫輸送をトータルサポートするサービスを提供しております。
「蓄電池の輸送に関わる規則・ルールが複雑」、「蓄電池物流をトータルで任せられるパートナーが見つからない」・・・こんなお悩みをお抱えではありませんか?
ぜひお気軽にご相談ください。
以下のボタンから事例を掲載している専用サイトにアクセスいただけます。ぜひご覧ください。
専用容器「ドライシッパー」を使用しマイナス150℃以下を保持した極低温輸送サービスのご紹介です。凍結状態が必要な血清、細胞、特殊化学品、試薬などの輸送にオススメします。
このほか、様々なソリューション・事例がございますので、ご興味がありましたらお気軽に当社営業、または当WEBサイトの「お問合せ」よりご連絡いただけましたら幸いです。