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フィリピンのビジネス環境 ―経済から物流事情まで―
フィリピンは堅調な経済成長を続け、2024年の実質GDP成長率はASEANの中でベトナムに次ぐ2番目となりました。
人口増加の中で若年層の人口割合も高く、今後の経済成長が注目のフィリピンについて、今回のニュースレターでは、フィリピンのビジネス環境を政治・経済や物流事情の面から取り上げ解説します。お時間ありましたら、ぜひお読みください。
フィリピン基礎情報
フィリピンは、東南アジアに位置し、7,000以上の島々からなる島国です。ASEANで唯一のキリスト教国で、国民の多数が英語を話せるため、主要産業であるサービス業でも強みとなっています。さらに、人口は1億人を超え、人口構成では若年層の人口が多いため、英語能力と若年層人口の多さはフィリピン経済成長に向けた強みの1つとなります。
図1:フィリピン基礎情報
国名 | フィリピン共和国 Republic of the Philippines |
国土面積 | 29万8,170平方キロメートル ※日本の国土の約8割(日本:37万7,976平方キロメートル(2024年)) |
人口 | 1億903万5,343人(2020年フィリピン国勢調査) |
首都 | マニラ※首都圏人口は約1,348万人(2020年フィリピン国勢調査) |
民族 | マレー系が主体。ほかに中国系、スペイン系及び少数民族がいる。 |
言語 | 国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語及び英語。180以上の言語あり。 |
宗教 | ASEAN唯一のキリスト教国。国民の83%がカトリック、その他のキリスト教が10%。イスラム教は5%(ミンダナオではイスラム教徒が人口の2割以上)。 |
識字率 | 識字率 96.3%(2019年国連教育科学文化機関) |
議会 | 二院制(上院24議席、下院311議席) |
主要産業 | ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含むサービス業(GDPの約6割)、鉱工業(GDPの約3割)、農林水産業(GDPの約1割)(2021年) |
出所:外務省「フィリピン共和国(Republic of the Philippines)基礎データ」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/index.html)より当社作成
政治
政府・政策
2022年にフェルディナンド・マルコス元上院議員(当時)が、第17代大統領に就任しました。
フィリピンは大統領の任期が6年で再選禁止のため、2028年6月までとなります。
2016年にフィリピンは長期開発ビジョンとして、「AmBisyon Natin 2040」を掲げています。2040年までに安心、快適、安全を実現し、貧困者のいない幸福な中流社会となるという目標で、2040年までに国民1人あたりの所得水準を3倍にすることを目標としています。
「AmBisyon Natin 2040」の達成にむけ、マルコス政権では「フィリピン開発計画2023-2028」を策定し、農業開発、観光業振興、感染症対策、教育改革、デジタル変革、積極的なインフラ整備、クリーン・エネルギー利用を含むエネルギー安全保障等を通じて経済発展と貧困削減を目指しています。2028年の政権終了までに達成したい数値目標も示されており、GDP成長率は6.5~8.0%、失業率は4.0~5.0%、貧困率を8.8~9.0%への引き下げ等となります。
また、インフラ整備についても前政権時代から「ビルド・ビルド・ビルド」として推し進められていました。現在のマルコス政権でも前政権のインフラ整備を引き継ぎつつ拡大させて「ビルド・ベター・モア(BBM)」として、陸海空の連結性、水資源、エネルギー、社会インフラなどのインフラ整備に積極的に取り組んでいます。その背景としては、フィリピンのインフラ整備の低さが、フィリピンへの海外直接投資の少なさの要因の1つとして考えられているためです。
インフラ整備にあたっては、政府開発援助(ODA)での整備を進めてきましたが、官民連携(PPP)で民間資金の活用や政府系投資ファンドを活用していくことにも言及しています。
経済
実質GDP成長率
フィリピンは、堅調な経済成長を続けていますが、フィリピン経済の成長は個人消費が主導しています。その要因としては、海外での出稼ぎ労働者が多く、出稼ぎ労働者からの本国送金が個人消費につながり、フィリピン経済を支えています。
フィリピンの2024年の実質GDP成長率は、前年比+5.6%と前年の同+5.5%からわずかに加速しています(図2)。その内訳を見ると、政府支出が加速し、財輸出のマイナス寄与は縮小しています。その一方で、総固定資本形成(民間部門と政府部門による固定資産への投資)とサービス輸出は減速し、輸入はマイナス寄与が拡大しました。コメを中心とする食料価格の高騰を背景に2024年以降インフレが再加速し、主力の民間消費は弱さが続き、足下では、食料価格の安定化や政府によるコメの輸入関税引下げ等の政策を背景にインフレが落ち着いており、中央銀行は内需喚起に向けた利下げを行っています。
産業別寄与度をみると、輸出志向型工業への転換が遅れたことにより、製造業は比率が低い傾向にあります。一方で、比率が高い産業はサービス業となり、特に近年はBPO産業が成長しています。
図2:フィリピン実質 GDP 成長率(需要項目別及び産業別寄与度)
出所:経済産業省「通商白書2025」(https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2025/index.html)
また、IMF(国際通貨基金)によると2025年のフィリピンの実質GDP成長率予測は+5.5%です。2024年から2025年はわずかに下がりましたが、2025年以降から2030年までの予測値(図3)をみると、微増で推移していることがわかります。
図3:フィリピンの実質GDP成長率の予測値
出所:出所:International Monetary Fund(https://www.imf.org/en/Countries/PHL)より当社作成
※実質GDP成長率は 2025年以降、IMF による予測値
貿易
総貿易額(図4)の推移を見ると、2024年は2008.7億ドルで前年から約0.5%増加しています。総貿易額の内訳では、輸入額が輸出額を上回る状況が続いており、貿易赤字が続いています。
貿易構造は、主要貿易品目(図5)の通り、主に電子・電気機器の資本財や中間財を輸入し、その加工品を輸出する中間貿易の形を取っています。
また、主要貿易相手国(図5)としては、2022年は、米国、日本、中国と続き、輸入相手国は中国、インドネシア、日本となります。
図4:フィリピン総貿易額(FOBベース)の推移(億米ドル)
出所:外務省「フィリピン共和国(Republic of the Philippines)基礎データ」、
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/index.html)、Philippine Statistics Authority「Statistical Tables」(https://psa.gov.ph/)を加工して当社作成
図5:主要貿易品目と主要相手国
出所:外務省「フィリピン共和国(Republic of the Philippines)基礎データ」
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/index.html)
ASEAN諸国内でのフィリピン
ASEAN諸国内でのフィリピンがどのような位置づけにいるのか、実質GDP成長率、生産活動(鉱工業生産)、雇用動向の観点から見ていきます。
<実質GDP成長率>
2024年実績の実質 GDP 成長率は、フィリピンはASEAN諸国の中でベトナムに次ぐ2番目の高さとなっています。今後の見通し(図6)を見ると、2025 年については、関税の影響を受け、軒並み減速する予想となっています。内需依存型、また他の国より先行して金融緩和に転換したフィリピン、インドネシアでは、下落予想ではあるものの、比較的小幅にとどまる見通しです。
図6:ASEAN 諸国の実質 GDP 成長率の見通し
<生産活動>
ASEAN 諸国の鉱工業生産(図7)は、2024 年に入り回復基調が続いています。特に、エレクトロニクス関連が主力のベトナムやマレーシアは前年からの伸びが続いている一方で、タイやフィリピンでは軟調な動きとなっています。フィリピンが軟調となっている要因として、金属の生産減が足を引っ張っている模様です。
図7:ASEAN 諸国の鉱工業生産指数
<雇用動向>
ASEAN 諸国の失業率(図8)は、2022 年から改善傾向にありましたが、2024 年に入り内需が弱含んだインドネシアやシンガポール、フィリピンでは横ばいとなっています。足下で景気回復が続いているマレーシアやベトナム、タイでは低下基調が続いています。
図8:ASEAN 諸国の失業率推移
※備考:インドネシアの失業率は 2022 年 2 月から半年ごと、ベトナムは四半期、他は月次。マレーシアとシンガポールは季節調整後。
図6~8の出所:経済産業省「通商白書2025」(https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2025/index.html)
日系企業の進出状況
フィリピンへ進出した日系企業は1,630社(図9)で、2022年以降は徐々に増加傾向にあります。
図9:フィリピン進出の日系企業数
※日本の在外公館がそれぞれの管轄区域(兼轄国も含む)内にある進出日系企業の拠点数を調査したもの
※(1)本邦企業の海外支店等、(2)本邦企業が100%出資した現地法人及びその支店等、(3)合弁企業(本邦企業による直接・間接の出資比率が10%以上の現地法人)及びその支店等並びに(4)日本人が海外に渡って興した企業(日本人の出資比率10%以上)を対象
出所:外務省「海外進出日系企業拠点数調査」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html)より当社作成
フィリピンの物流事情
陸路
フィリピンの人口が集中しているマニラは、交通渋滞が深刻と言われています。
慢性的な交通渋滞緩和の対応策として、「カラーコーディング」という規制が導入されています。 バス、6輪以下のトラックなどを対象に車輛ナンバーの末尾で走行を規制しています(図10)。自家用車は、ウィンドウタイムという時間が設けられており、10:00am~3:00pmは通行可能となります。
図10:カラーコーディング
また、マニラでは、「トラックバン」という走行規制もあります。
4.5トン以上のトラックの通行を禁止するもので、月曜~土曜日の5:00am~10:00am、5:00pm~10:00pmは通行が不可となります。
空港
フィリピンの国際空港はいくつかありますが、主要空港となるのは、ニノイ・アキノ国際空港(マニラ国際空港) 、マクタン・セブ国際空港、クラーク国際空港、スービック・ベイ国際空港となります(図11)。
ニノイ・アキノ国際空港は、マニラ近郊に位置しフィリピンのゲートウェイ空港で、混雑緩和が課題となっています。同空港の機能拡張や、新たな空港としてブラカン州に新マニラ国際空港の建設、クラーク国際空港の拡張など代替利用が可能となるよう拡大が図られています。
図11:フィリピンの主要国際空港
港湾
フィリピンでの主要な国際港湾(図12)は、マニラ港、セブ港、ダバオ港、スービック港、バタンガス港があります。
フィリピンの国際港湾の中で最大の取扱量がある港湾がマニラ港となります。2023年の世界の港湾別コンテナ取扱個数を見ると、マニラ港は約521万TEUの取扱個数があり世界ランキングでは36位でした。日本と比較すると、日本港湾の中では東京港が最も取扱個数が多い港湾で約457万TEU、世界ランキングでは46位となり、マニラ港は東京港より取扱量が上回っています。
その他、スービック港・バタンガス港は、マニラへ接続する各高速道路がありマニラ港を補完する港湾としても機能しています。
図12:フィリピンの主要国際港湾
フィリピン経済区庁(PEZA:Philippine Economic Zone Authority)
フィリピンでは外資系企業の投資を誘致するための優遇措置があります。
各優遇措置の中でも、フィリピン経済区庁(PEZA)の優遇措置は、輸出志向の製造業企業に対する優遇措置が設けられています。直接的なフィリピンの物流事情ではありませんが、「輸出」という観点で関わりのあるPEZAについてご紹介します。
・フィリピン経済区庁(PEZA:Philippine Economic Zone Authority)
PEZAはフィリピンの政府機関の1つで、フィリピンでの優遇投資の登録・管理を行っています。経済特区(エコゾーン)を設けており、そこで事業を行うため登録した企業に対し優遇措置を付与しています。以下でPEZAについてご紹介します。
<PEZAの登録>
PEZAは、企業が事業タイプ別に登録を行います。事業タイプは複数あり、輸出製造業(原則は100%輸出する事業者だが、30%までの国内売りを認める場合あり)、ITサービス輸出企業、エコゾーンの開発・運営事業、自由貿易企業等となります。
<優遇措置>
優遇措置は、登録の事業タイプによって異なります。
ここでは、輸出製造業の主な優遇措置についてご紹介します。
① 法人所得税の免除(Income Tax Holiday : ITH)
・拡大事業の場合:3年間ITH
・非パイオニア企業の場合:4年間ITH
・パイオニア企業の場合:6年間ITH ※条件を満たせば最大8年間まで延長可能
法人税免除の期間が終了した後は、特別優遇所得税率として5%が適用されることになります。
②関税の免除
商品、原材料、供給品、機械等の関税が免除されます。
③その他
埠頭税、輸出税、賦課金等の免除等や、税制優遇措置以外にも税関手続きの簡素化等があります。
以上、ここまでフィリピンのビジネス環境を政治・経済や物流事情の面からお届けしました。
(執筆は2025/9/26時点で、情報は変わる可能性があります)
ここからは、当社の関連物流サービスを紹介します。
当社関連サービスのご紹介
フィリピン支店のご紹介
フィリピン支店は2013年に設立し、電機精密/半導体・電子部品を取り扱ってきました。
当支店は、マニラ国際空港から約50Km、マニラ港からは約52㎞に位置しています。
PEZA倉庫の運用を始め、航空・海上輸送、国内配送、通関業務などお客様の様々なロジスティクスニーズにお応えします。
PEZA倉庫活用による非居住者在庫運用サービス
非居住者在庫運用とは、フィリピンに会社を持たないお客様(非居住者)がフィリピンに資産を持ち、国内外に調達・販売を行う際の在庫管理が可能となるサービスです。
当支店は、PEZAライセンスを保有し、PEZA倉庫で非居住者在庫運用サービスを行っています。ご利用いただくメリットとしては、以下があります。
<ご利用メリット>
・在庫の一元管理により管理工数を低減し、全体的な物流の効率化
・納期に合わせた迅速な納入が可能で、リードタイムを短縮し、お客様の販売機会拡大をご支援
<PEZA倉庫での非居住者在庫運用を活用したスキーム例のご紹介>
【Before】
・メーカーは、フィリピンから日本へ国際輸送し販売先へ納品
・販売先は、日本から各海外法人へ国際輸送
【After】
・当社フィリピン支店のPEZA倉庫を利用した非居住者在庫で運用
・メーカーからPEZA倉庫へのフィリピン国内のトラック輸送後、PEZA倉庫にてメーカー(日本)資産で在庫を持ち、販売先の各海外法人へ国際輸送するスキームに変更
メリット:フィリピンから日本への国際輸送が不要となり、輸送リードタイムの短縮や物流コストとCO2排出量削減に貢献
半導体・電機精密部品の専用エリアを保有
半導体・電子部品特有のご要望を満たす倉庫条件(温湿度管理・静電対策)があり、ISO9001(品質)の認証も取得しています。ESD仕様、各種指定ラベル発行など様々な付加価値サービス(以下)があり、お客様のご要望にお応えします。
その他のサービスご紹介
包装・梱包ソリューション(設計・評価試験)
包装設計事例や各評価試験の具体的なご紹介ページを新たに公開しました。
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